●現在の宇宙の姿を学ぶ
「現在の宇宙の姿」という講義を行います。副題に「宇宙ってなんだか知っていますか」が付いています。私は岡村定矩と言いまして、東京大学で天文学専攻の教授をしていました。現在は東大で行われている社会人のためのプログラムである東大EMP(東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム)のチェアマン補佐として、その企画・運営に当たっています。
なお今回のシリーズは、6コマの講義になっています。宇宙に関する話題はマスコミなどでもよく登場しますが、宇宙のどこにある天体の、何に関する話題なのかが、なかなか分かりません。そこでこの講義では、現在の宇宙の姿を概観して、皆さんの頭の中で宇宙の知識を体系化することを目標とします。宇宙の知識の体系化ができれば、宇宙に関するニュースも良く理解できるようになるはずです。
はじめに、宇宙に関する用語を独習できる日本天文学会のインターネット版「天文学辞典」を紹介しておきます。以下URLからアクセスすれば、誰でも見ることができますので、「お気に入り」に登録しておくと便利です。
・日本天文学会 インターネット版「天文学辞典」
http://astro-dic.jp/
こちらは、2018年4月から公開したものですので始まったばかりですが、学問の進歩に沿って常に更新および改訂を続けていますので、ぜひ末永くご利用していただきたいと思います。
●講義の位置づけ(1)宇宙の歴史ではなく現在の宇宙の姿
次に、6コマの講義では宇宙の全てをお話しすることはできませんので、この6コマの講義の位置づけを最初に説明します。
上のスライドの図は、宇宙進化のイメージ図であり、横軸は時間で宇宙の誕生(時刻=0)から現在まで(時刻=138億年)、縦軸は宇宙の広がりを表しています。ビッグバンで宇宙が誕生し、最初に急速な膨張をします。それからずっと膨張を続けて大きくなり、60億年前あたりから膨張が加速しています。そういったことをイメージした絵になります。釣鐘を横にしたようなものが宇宙を表していますが、これはイメージ図ですから、「釣鐘の中が宇宙で外は宇宙でない」という風には考えないでください。
宇宙は、今から138億年前にビッグバンで誕生しました。その非常に小さく超高温・超高密度な宇宙が、急激な膨張(インフレーション)で火の玉となり(ビッグバン)、さらに膨張を続けて冷えてきて、その中でガスの雲から星や銀河などができ、現在の宇宙へと進化していきます。これが宇宙進化の大まかなストーリーです。このように宇宙は138億年の歴史を持っていますが、今回の6コマの講義で扱うのは、現在の宇宙についてだけです。宇宙の歴史については、この講義では触れません。
また、宇宙は広大なので、遠くの天体は、そこから出た光がわれわれに届くまでにかかった時間だけ過去の姿を見せています。ですから、この講義では非常に遠い天体の話はしません。光が届くまでの時間が宇宙の歴史に比べて無視できるくらいの近傍の(現在の)宇宙の姿を解説します。
●講義の位置づけ(2)われわれが知っている通常の物質のみが対象
宇宙は3つの成分から構成されています。それらをエネルギー密度で表すと、われわれが知っている普通の物質が5パーセント、「ダークマター」あるいは「暗黒物質」と呼ばれている正体不明の物質が26パーセント、最近発見された「ダークエネルギー」というものが69パーセント、ということが分かっています。つまり、われわれは宇宙をつくっているものの5パーセントしか知らず、宇宙の95パーセントは全く知らないもので構成されています。そういった不思議な状況にわれわれは置かれているのですが、この講義ではその未知のものには触れず、5パーセントの普通の物質のお話をします。
ダークマターやダークエネルギーの正体は、実はまだ全く不明なのですが、これについての解説書はたくさんあります。ここでは、人類の宇宙観の変遷という観点からの資料として『宇宙観5000年史』(中村士・岡村定矩著、東大出版会)の附録A(「新しい宇宙観の幕開け」)をあげて紹介しておきます。
●6コマの講義それぞれの内容
以上のような位置づけで行われる6コマの講義それぞれの内容は、以下のように展開されていきます。
1 星はなぜ自ら輝くのか
2 太陽系から星の世界へ
3 天の川と銀河系
4 銀河からなる宇宙
5 宇宙のスケールモデル
6 まとめと仮想宇宙旅行
●星には恒星と惑星・衛星の2種類が存在する
第1回の今回は、「星はなぜ...