宇宙開発はわれわれ人間の生活のあらゆる分野に密接に関わっている。具体的に何が、どのように、われわれの暮らしを支えてくれているのだろうか。また、そう遠くない未来に多様な目的地に向けて往復する宇宙飛行も実現するかもしれない。その実現に向けた研究の一端も紹介する。(全14話中第14話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
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●われわれの暮らしを便利にする宇宙開発
川口 宇宙開発は現代生活のさまざまなものに関係していて、裾野が広い活動です。
左上から順番に見ていくと、一つは先端デバイスがあります。プラズマディスプレイ、光磁気ディスクもそうです。成膜技術です。それからジェットエンジン、ガスタービンエンジンといった発電所の高度なエンジンは、宇宙開発で培われた炭素繊維複合材のタービンブレードからできている。
探査ロボットはまさしくロボットそのものです。生産現場で大きな活躍をすることにつながります。「はやぶさ」は世界で初めてリチウムイオン電池を使った探査機でした。リチウムイオン電池もさることながら、新しい電源を生み出す原動力の出発点、そのきっかけを宇宙開発が与えることは多く、これも世の中に役立つ道だと思っています。
左下の太陽電池はもちろんのこと、薄膜太陽電池も、JAXAの小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」に実際に搭載させましたが、これを実用化することで軽量で安価な太陽電池が作られていくわけです。それから、デジタル技術の中心であるデータの圧縮技術は深宇宙通信では欠くべからざるもので、その技術は宇宙探査で磨かれたものです。これにも大きな貢献をしていると思います。
誤り訂正符号技術は、深宇宙通信を経て大きな進展が得られた分野で、このおかげで現在の地上のテレビ放送をはじめ通信関連は大きな進歩を遂げてきました。このように、宇宙探査はわれわれの生活と密着しています。
―― 自動車ですとF1レースが技術開発の一つのきっかけになっていますが、宇宙開発がこういった技術を生み出していくのは、それだけ過酷な環境に挑むからということになるのでしょうか。
川口 そうですね。極限の技術が必要になってくるということです。
あとは、日夜カーナビでお世話になっていると思いますが、GPSやGNSSと呼ばれるものです。地上に対しての航法サービスを提供しているわけですが、これらは宇宙時代になってまさしく効果が得られたものです。分野としては「PNT(Positioning, Navigating and Timing)」と呼ばれていて、今やわれわれの生活にはなくてはならないものになっているということで、いろいろな展開の応用があります。
月近傍...