近年は宇宙開発技術の分野においても、中国の台頭が著しい。しかも近年では、たんなるロシアの技術の延長という範疇を大きく超えている。中国の宇宙開発の歩み、そしてその特徴とはどういうものだろうか。また、この中国の台頭に対し、他国はどのように考えているのだろうか。中国の宇宙開発をめぐる歴史と現状を解説する。(全14話中第10話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●中国の宇宙開発への投資規模は「途方もない」
川口 中国の宇宙開発については、先ほど嫦娥(チャンア/じょうが)5号の話をしました。宇宙開発について金額の絶対値はあまり意味ないとはいえ、中国が宇宙開発に投じている投資規模は途方もないものがあります。大型ロケット(写真左)はつくっているし、火星着陸機や月着陸機だけではなく、写真右にあるように宇宙ステーションを地球の周りに建造している。昔のスカイラブのようなものです。ここに中国人宇宙飛行士が滞在して戻ってくるということを繰り返しながら、宇宙活動を次々と行っています。
これだけのことを行っていけるのは、もはや中国くらいしかありません(インドは行うかもしれません)。アメリカも欧州も、宇宙開発への投資に対して「何のために行うのか」という問いになかなか応えられていない。国威発揚は悪いことではないと思います。自分の国にどれだけ確かに自信が持てるかは非常に大きなもので、持てなくなったらおしまいです。だから、(その目的も)大いに結構だと思うのですが、宇宙開発だけに投資していくわけにいかないというのが各国の正直な事情だと思います。
●火星探査などについては「独自の技術」で行っている
川口 右は火星探査機「天問1号」です。見ると分かるように非常に大きく、打ち上げ重量で5トンある。これがきちんと着陸し、そしてローバーを転がして探査を実際に行っているわけですから、中国の宇宙探査に対する意欲の高さ、そしてそれをやり遂げようという意気込みのすごさを感じます。
中国は、小惑星のサンプルリターンなどはおそらく「はやぶさ2」の数倍の規模で行うはずで、数年以内に必ず実行されるでしょう。そういった国家目標が掲げられています。
―― 中国の技術は基本的にはロシアの技術の延長になるわけですか。
川口 今はそうでないと思います。
―― 今は違うのですか。
川口 はい。宇宙ステーションはロシアの「ソユーズ」の流れを汲んでいますが、少なくとも月探査、火星探査については独自の探査機を自国でつくり上げている。そういう意味では大変素晴らしい活動をしています。技術的には世界で最も取り組んでいる国の一つですから、素晴らしいものがあります。
納税者とい...