現在の宇宙開発は「国際月探査」を合言葉に掲げている。だが月は人類の移住先にも適さず、探査にさほどメリットがない。にもかかわらずなぜ「月探査」が目標として掲げられているのか。それは冷戦後、宇宙開発の目標を失った各国の宇宙開発を継続・発展させるための策でもあったという。(全14話中第9話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●現在の宇宙開発の合言葉は「国際月探査」
―― 先生、続きまして「月から火星へ」というテーマですが、これは、どのようなお話になりますか。
川口 今、世界の宇宙機関同士が話し合って「宇宙開発がサステナブルになるようにする」ための活動をしています。そして投資する方向として「国際月探査」が合言葉になっている。
先ほど、「嫦娥(じょうが)5号」が月からのサンプルリターンをやってのけたという話をしました。今、中国は独自で月に人を送りたいと思っています。だから中国は「国際月探査」には参加していない。以前の冷戦時代であれば、対中国ということでアメリカは威信をかけて対抗したかもしれませんが、今、アメリカ国内で月に有人で向かわなければいけないと考える人はほとんどいません。なぜかというと、すでにやり遂げたからです。それをしなければならない理由がなかなか見つけられない。
ただ中国が有人の月探査をするとなると、いってみれば月はアメリカだけが人の足で踏み込んだことのある天体であり、アメリカは別の権利の主張を行われたくない。「アメリカ1国で」ということでは国民の同意は得られないので、宇宙開発に巨額を投じていくための目標が必要なのです。
そういった観点から「アメリカ1国では行けないけれど、みんなでやりませんか」ということで、国際宇宙ステーションの次に来るべきものとして「国際月探査」を掲げている。協働で月に行くようにしてはどうかということで、「アルテミス合意」(※米国主導の有人月探査計画「アルテミス計画」の実現に向けた多国間での法的枠組み)が作られたわけです。それがいってみれば、各国の宇宙機関が経費を支出しなければいけない動機になっているのです。
●月探査は「確実に成果を挙げる」方法が望ましいが……
左はJAXA(宇宙航空研究開発機構)の小型月着陸実証機「SLIM」です。見ると分かりますが、上にノズルがついている。要するに上下がひっくり返っています。
右は、その直後に打ち上げられた、アメリカの民間企業による月着陸機「オデュッセウス」です。これは成功したといわれていますが、その具体的な確証がなかなか見えてこない。着陸したあと程なく通信が途絶えたようです。
JAXAが先行してよかったと思います。民間企業が行ったあとにJAXAの探査機が...