東大ハチ公物語―人と犬の関係
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なぜ人はハチ公の物語に感動するのか?
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忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
一ノ瀬正樹(東京大学名誉教授/武蔵野大学人間科学部人間科学科教授)
東京大学大学院人文社会系研究科教授・一ノ瀬正樹氏が、海外でも有名な「ハチ公」の逸話を例に、人と犬の関係について考察する。第一回目は、ハチの飼い主・上野英三郎博士について触れ、東大とハチ公の結びつきや、東大駒場キャンパスに上野氏とハチの銅像が作られた経緯を紹介。また、深い感動を呼んだハチの行動に関するさまざまな見方についても言及する。(全5話中第1話)
時間:9分37秒
収録日:2017年4月4日
追加日:2017年6月13日
≪全文≫

●海外でも有名なハチ公の逸話


 こんにちは。東京大学哲学研究室の一ノ瀬です。今日は「東大ハチ公物語―人と犬の関係」という題のもと、少しお話をさせていただきたいと思います。要するに、今日は犬のお話をさせていただきます。

 まず、「東大ハチ公物語」というタイトルについてです。「ハチ公」とは、渋谷の駅前に銅像があるハチ公のことですが、「なぜそれが東大に関係があるのか?」という疑問を持たれる方が、もしかしたらいるかもしれません。そのことからまずお話しします。

 ハチ公は世界的にも有名な犬で、私が外国に行って外国の研究者と雑談をしている時、哲学関係の人で犬を飼っている人も多いので、犬について話題が及ぶと、「そういえば、日本にはハチ公って有名な犬がいますよね」という話になるのです。ただ、そういうときに、私はハチ公について特に関心があったので一定の知識がありますが、そうでない方々も、ハチ公をすごくよく知っていて、ハチ公の物語もよく知っている。例えば、渋谷で飼い主が亡くなった後ずっと待ち続けたというその逸話は、ほとんどの方が知っているのです。


●ほとんど知られていないハチ公の主人・上野英三郎博士


 けれども、「待ち続けた」という時に、では一体、誰を待っていたのかということは、必ずしも皆さんが知っているとは限らないということに、ある時私は気づいたのです。同僚の日本人の方はそういうことを知らない場合が多かったですし、なぜそうなのかなと私は思いました。あれほど主人を待ち焦がれて待っている犬なのに、その主人が誰かということについての知識が、ぽっかりと抜けているというのは妙なことだと思ったのです。

 実はこの主人とは、私の所属している東京大学の農学部の教授で農業土木を専門にされていた上野英三郎という方なのです。上野博士が飼っていた犬がまさしくハチで、実は、ハチと上野博士は1年と数カ月しか一緒にいなかったのですが、上野博士がハチを異様にかわいがったので、ハチがその主人をずっと忘れることがなかった、というお話なのです。

 上野博士は実は渋谷に住んでいて、当時農学部は今の駒場キャンパスにありました。上野博士は渋谷の松濤という所にご自宅があって、仕事に行くときには駒場キャンパスまで歩いて行っていたのです。ところが、上野博士は当時の日本では最先端の農業土木の研究者だったので、政...

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