●国際化時代の中で道徳を根本から見つめ直す
本日は「道徳と多様性」ということでお話しさせていただきます。このお話は、以前に書いた『東大理系教授が考える 道徳のメカニズム』(ベストセラーズ)という本が元になっております。なぜ、道徳と多様性なのかということを、これから説明しますが、今グローバリゼーションとか異分野融合とか言われていますが、そのときにどうやって道徳と多様性を両立させるかという話です。
まず、背景についてですが、多様性と道徳がどう関わっているかということです。今、こういう時代になってきましたので、イノベーションを志すような人は、最高のモノ・システム・サービスをつくり上げるために、国境や分野に関係なく叡智を集める必要性があるでしょう。大学はまさにそういう場所です。国際化・異分野融合により境界を越えて多様性を実現するということがカギになってきます。
境界を越えて異なる価値観に触れるときには、実は各人の道徳体系が問われています。われわれは、このことをあまり考えないのですが、他の国に行ったり、他の分野に行ったときに、自分の道徳体系がそのまま当てはまるのかということは、実は自明ではないのです。グローバリゼーションが叫ばれる現在、実は道徳を根本から見つめ直す必要があるのです。
例えば今、世界を見ますと、世界中の人間が仲良くすべきだという考えと、よそ者は追い払うべきだという、アメリカでいうと民主党と共和党のような、そういう対立関係があるわけですが、これらのどちらにどのような根拠があるかということを考えてみました。
●道徳に科学的にアプローチする
私は科学者の端くれですので、道徳を今までのアプローチとは違って科学的に考えてみようと思います。「科学的にアプローチする」と言っても、とても簡単なことです。まず最初に問題点を検出して、次に問題点を分析し、それを元に統合してモデルをつくり、またそれを現実に返して問題点がないかを検出する。こうしてグルグル回るわけで、ビジネスでいうところのPDCA(Plan・Do・Check・Action)サイクルと全く同じです。
これをゼロベースで検討しましょう、ということです。残念ながら今までの道徳の本を読みますと、最後はどうしても自分たちが慣れ親しんだ何とか主義、何とか教、何とかイデオロギーに帰結してしまいます。西洋哲学などでは、最...