●商売の基本は「不足」の認識を共有化すること
さらに、どこが商業の基本であるかということも説きました。あらかじめ申し上げておきますと、商業の最初というのは、こちらで足りているものがこれだけある。これをここに置いておいてももったいないから、足りないところへ持っていきましょう。したがって、足りすぎて余っているものを不足のところへ持っていく。
「これを、この値段でどうでしょうか」と言うと、(相手は)足らないわけですから、「いやあ、ありがたい」と言って、買ってくださる。また、「この土地に余り物はありませんか」と訊くと、「こういうものが余っています」「それは、私のところでは非常に不足しているものです。それでは、これだけで買いましょう」と言う。
このように、足りている部分から不足の部分へやりとりするのがビジネスの基本である。その心は何かというと、買うときに誰もが商品はいいと思っても、「いくらですか」と訊いて、具体的に値段を言われた瞬間に、「うーん、ちょっとどうしようかな」となる。これは、人間の心理として誰もが「いや、そうか。ちょっとどうしようかな」となって、よほどの人でないかぎりポンと出すということはないということです。
したがって、まず「不足」についての認識を共有化するのが商売の基本です。
「これが足りないというお話ですが、どうですか」と問うと、「いやあ、そうなのですよ。この地域はそういうものがとれなくて、とても不足していて困っています。この間も親がこういう状況になって、なんとかならないかと思ったら、それが手に入らなかったので、親をとても悲しい気持ちにさせてしまって…」などといった不足を共有化する。
「そうですか。それでは、いいときに来たわけですね。今、私のところではそれがとてもたくさんとれるものですから、持ってきました」と言って、それを見せる。「これを、いくらで」と言うと、不足していることが解消される喜びが主になるから、それなりに喜んでくれる。つまり、買い手も喜ぶ、売り手も喜ぶ。
買い手も喜ぶ、売り手も喜ぶという状況が全国に広がれば、要するに世間もとてもいい状況になる。なぜなら、経済活動が活発化するから。それを「売り手よし、買い手よし、世間よし」と。
石田梅岩のいう、この大きなテーマはそういう意味です。人間は金を出すことにとても抵抗...