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有漏の善根では駄目…「商人日用」に学ぶ商売の心得

石田梅岩の心学に学ぶ(8)鈴木正三『万民徳用』を読む(下)

田口佳史
東洋思想研究家
概要・テキスト
江戸初期の商人は利を求めるのに忙しく、信心と離れた存在だと自らを卑下していたようだ。鈴木正三は『万民徳用』の「商人日用」において、彼らに対し、利益を追求するには「身命を賭して、天道に抛(なげうっ)て、一筋に正直の道を学ぶ」べきだと説く。私欲を捨て、世の過不足を調整することで天の采配を代理することこそ商売の醍醐味だというのである。(全9話中第8話)
時間:16:15
収録日:2022/06/28
追加日:2024/05/27
キーワード:
≪全文≫

●「商人日用」で売買の心得を知る


 それでは次に「商人日用」(です)。

 「商人問云(とうていわく)、『たまたま人界に生を受くるといへども、つたなき賣買の業をなし』」、私は人の世界に生を受けた者、いわゆる人間ですが、なにしろ売り買いの業をやってきたので、「得利を思念(おもうねん)」、なんとか儲けなければいけないということを、休むときなく思っています。(これでは)「菩提にすすむ事かなわず」、仏の前に出て祈りを捧げるなどということはない。これこそ無念の至り。なんとかこういう人間が助かる方便はありませんでしょうか、と商人が言った。

 それに対して鈴木正三が、「賣買をせん人は、先得利の益(ます)べき心づかひを修行すべし」と(答える)。売買をする人は、まず得利(利益を得ること)をもっと追求するための心遣いをコントロールできるようにするのが基本ですよ、と言う。

 その心遣いというのは他のことではない。「身命」すなわち身体と命を「天道に抛(なげうっ)て、一筋に正直の道を学ぶ」べきである。売買だけで終わる人間ではなく、仏の領域まで入っていけるかいけないかは、得利(利を増やそう)の心をどう修行してコントロールできるかというところにあるからである。

 「心づかひと云は他の事」にない。そのときに持たなければいけない心は、身命を賭し、天道になげうって、自分が商売しているのも天に代わってやっているのだと思う心。「一筋に正直」の道が天道の道で、「正直の人には諸天のめぐみ」深く、「佛陀神明の加護有て、災難をのぞき、自然に福をまし、衆人愛敬、不淺して万事心にかなうべし」ということになる。

 正直一筋に、正直、正直という正直の人には「諸天のめぐみふかく、仏陀神明の加護」があるので災難は省かれ、自然に幸いというものが起こってくる。そうすると多くの人があなたのことを尊敬し、愛するようになる。万事そういうふうになるということを絶対に忘れてはいけません。


●私欲を捨て、天道に沿う商売を行う


 「私欲を専(もっぱら)として、自他を隔」て、つまり私欲というものをどんどん大きくして、もっと儲けよう儲けようとするのが「自他分離」です。相手あるいは他の人はどうでもいい。自分だけが儲ければいいと考え、他の人の苦労を思いやらず、自分さえよければいいというふ...
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