AIに善悪の判断を教える方法~新しい道徳論
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
多様性の実現には仲間の範囲を広げる戦略が適切
AIに善悪の判断を教える方法~新しい道徳論(5)仲間意識と言葉の特殊性
鄭雄一(東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻教授)
リアルではないバーチャルな仲間意識は可変的なものだと、鄭雄一氏は指摘する。その意識はなぜ作られるのか。そのような多様な意識の中で、どのように寛容な道徳は作られ得るのか。鄭氏の提案を聞こう。(全8話中第5話)
時間:10分55秒
収録日:2018年6月20日
追加日:2019年6月26日
≪全文≫

●バーチャルな仲間が可能になった理由は言葉にある


 なぜバーチャルな仲間意識が可能になったかですが、それは言葉、人間の言葉に大きく依存していると思います。

 ヒトの言葉の特殊性を粗視化して2つにまとめると、まず三人称があります。今、ここにいない第三者の状態を伝達します。これは空間を超えることができます。次に時制、現在以外の時間を扱えます。これは時間を超えることができます。要するに時空を超えて、今ここにいない第三者に関する情報を伝達処理できることになります。これこそがまさにバーチャルな出会いを可能にするわけです。

 例えば信徒にとっての教祖を考えてみてください。教祖はもう何千年も前に亡くなった全くの赤の他人です。でも信徒はその人の体験や、教えなどを口伝えであったり、本を読んだりして追体験します。追体験することでバーチャルに出会っているような状態になります。このようなことは、時空を超える情報伝達手段である言葉がないとできないわけで、これができるのはヒトの言葉だけです。部分的にできるかもしれない動物の言葉もありますが、これが完全にできるのはヒトの言葉だけなので、ここが一番大きな人間と他の動物の違いではないかと思います。


●言葉とは一種の社会的な取り決めであり、絶対的なものではない


 これはなぜ、可能になったかですが、ヒトの言葉は、境界線のない現実にある一定の線を引いて概念をつくり、そのときの気持ちとは関係ないある音を対応させるという操作を行っています。その境界や音の範囲はあいまいで、可変的で相対的で場所や時間により変化する社会的な取り決めです。同じ言語の中でも時代によっても違うし、地方によっても違うようなものです。

 例として「私」という言葉を考えてみてください。これはデカルトなどが哲学の出発点としたものですが、例えば腸内細菌を考えたとき、2000年前にはもともとばい菌があることすら知られていなかったので、腸内細菌のことなど誰も考えていませんでした。レーウェンフックが顕微鏡を発明して、細菌がいると分かったため、細菌がいてどうも人間に悪さをしているらしいと思っていたわけです。しかし今や、腸内細菌はわれわれが生まれてから死ぬまで、われわれの免疫や代謝を助けているということが分...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
道徳と多様性~道徳のメカニズム(1)既存の道徳の問題点
多様性の時代に必要な道徳とは…科学的アプローチで考える
鄭雄一
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
もののあはれと日本の道徳・倫理(1)もののあはれへの共感と倫理
本居宣長が考えた「もののあはれ」と倫理の基礎
板東洋介
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(序)時代考証が語る『豊臣兄弟!』の魅力
2026年大河ドラマ『豊臣兄弟!』、秀吉と秀長の実像に迫る
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由
ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想
川出良枝
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生
親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較
堀口茉純
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治
編集部ラジオ2025(31)絵で語る葛飾北斎と応為
葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る
テンミニッツ・アカデミー編集部
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
「進化」への誤解…本当は何か?(1)進化の意味と生物学としての歴史
実は生物の「進化」とは「物事が良くなる」ことではない
長谷川眞理子