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勇気とは先天的か後天的か?西洋古典が答える大事な問い

運と歴史~人は運で決まるか(6)運と知はどちらが勝っているのか

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
古代ギリシアには、道徳を表す「アレテー」と運や運命を表す「テュケー」という言葉がある。それぞれ東洋における「仁」と「運」に近い言葉だが、ここで一つの疑問が出てくる。それは当時から西洋の人びとを悩ませてきた、「運と知はどちらが勝っているのか」という問題である。これについてどう考えるべきなのか。「アレテー」と「テュケー」の語源をひも解きながら、「勇気」という言葉を例に解説する。(2024年3月6日開催日本ビジネス協会JBCアカデミア講演「運と歴史~人は運で決まるか」より、全7話中第6話)
時間:08:10
収録日:2024/03/06
追加日:2024/05/23
キーワード:
≪全文≫

●東洋の「仁」と「運」、古代ギリシアの「アレテー」と「テュケー」


 少し日本の話が続いたので、ギリシアの古典の話でしてみましょうか。

 この「運」「仁」という言葉は、ずいぶんと意味がお分かりいただけたと思います。結局、「運」を引いてくるのは、どの時代においても人間関係を大事にし、人と人との結びつきにおいて不実がないこと(「仁」という概念)です。

 もちろん商売を行っていく、あるいは学問的な論争・競争を行っていく。どこにも競争はつきまとうわけです。そこに競争や論争のルールがあって、それを守りながら、勝負が決まることはやむを得ない。問題は、そういった人と競うときのルールが「不仁」であってはいけない、ということです。

 基本的に人同士の信頼や人同士の慈しみというものを持っていなければいけない。そうしないと、子孫は栄えることはできないというわけです。これはなかなか大事なことです。

 この中国や日本でいう「仁」という言葉は、西洋の概念でいうと何か。日本語に訳せば「道徳」という言葉に近い。道徳についてわれわれは「モラル」という言葉を使うのだけれど、もともとの言葉はギリシア語の「アレテー」にさかのぼります。

 基本的にその人の身に備わった徳を表す。そして、特に勇気であるとか、武勇であるという資質を美しい資質(美質)として表す言葉。これがいわば「道徳」です。その「道徳」をさかのぼったもとの言葉が「アレテー」になっていく。日本語に訳せば「道徳」というこの言葉は、もともとの漢語、あるいは近世以前の日本人が使った言葉でいうと「仁」に近い。やはり「道徳」ではないかと私は思うのです。

 「道徳」の対照的な言葉は、古代のギリシアの思想や文学に登場してくる「テュケー」という言葉です。この「テュケー」という言葉は、「運」や「運次第」を意味する。「運命」も意味しました。この「テュケー」と「アレテー」というものが非常に巧妙に組み合わさって、西洋古典に出てくる概念が生きてくるのです。

 皆さんがよくご存じの「運」とは、ギリシア語の系統から入っている言葉ではなく、ラテン語から入ってきている言葉のほうです。「フォルトゥーナ」、すなわち英語の「フォーチュン」という言葉です。「フォーチュン」とは幸運、まさに「...
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