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歴史における「運」とは?ソクラテスの「運」から考える

運と歴史~人は運で決まるか(1)ソクラテスが見舞われた「運」

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
歴史における「運」とはどういうものだろうか。例えば、富裕と貧困という問題について、「運」で決まるのか、あるいは「運」とは異なる努力、教養、道徳などの要素で決まるのかという点でも、思想家たちの考え方は分かれる。第1話の今回は、歴史をさかのぼり特別な不運に見舞われても穏やかに耐えた古代ギリシアの哲学者ソクラテスのケースを提示しながら、「運」について考えていく。(2024年3月6日開催日本ビジネス協会JBCアカデミア講演「運と歴史~人は運で決まるか」より、全7話中第1話)
時間:09:18
収録日:2024/03/06
追加日:2024/04/18
キーワード:
≪全文≫

●富裕と貧困という問題は「運」で決まるのか


 今日の私の話は、「運」というものはどういうものかについてで、歴史における「運」について語ってほしいということがご希望でした。したがって、話としてはなかなか難しい。私も、あらためて勉強してみたり、資料を読んだりを、昨日の夜までしていました。

 例えば、中国史において荘子、列子という思想家がいます。この人たちは要するに、物事の流れるままに「運」というものも進んでいくのであって、結果として金が貯まる、あるいは貯まらないで貧乏になるのは如何ともしがたいという以前に、「そもそも歴史の流れとはそういうものなのだ」と恬淡としている。このような人たちもいたわけです。

 ところが反面、古代のギリシアの思想家の中には、最初から富裕という問題と貧困という問題について考える思想家もいました。

 問題は「運」というもので決まるのか、あるいは「運」とは異なる歴史の要素(すなわち努力、教養、道徳など)で決まるのか、ということで思想家は分かれるのです。中国における「諸子百家」と呼ばれる孔子孟子、それから先ほど出てきた荘子、その師匠筋に当たる老子などによっても全て違う。問題は「運」とは何かということを考える際に、ソクラテスあたりからお考えになると分かりやすいかなと思います。

 岩波文庫で一番薄い本とは何か、ご存じですか。あるいはご記憶にある方はいますか。われわれの世代は高校時代から大学1年くらいにかけて、岩波文庫の薄いほうから読むのがいいということで、当時の子どもたちは薄いものから読んでいました。そうすると、2つ性格の違う本を読みます。

 1つは、マルクスの『共産党宣言』です。もう1つは『ソクラテスの弁明』という、プラトンなどが編んでいった本です。『ソクラテスの弁明』(が収められた本)にはもう1つ、『クリトン』という別の作品が入っている。この2つは当時の子どもたちに比較的人気があって、成長過程で(大学に入っていく中で)読んでいきました。


●「運」とはいいことばかりではない…ソクラテスの「運」から考える


 ソクラテスはBC5世紀に生きた人ですが、彼がなぜ毒を仰いで死ぬことになったかというと、告発されるからです。日本風にいうと、因縁です。アテネ(アテナイ)の若者たちを堕落させたという罪を犯したということで告発されたのです。

 これは非...
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