●定年準備は50代から始めて、「3年一区切り」で様子を見る
―― 自分を深めるというときに、先生がご本でお書きになっているのが、「3年一区切り」というお話です。これから実際に自分の好きなジャンルや伸ばしていきたい部分をぜひ深めていきたいという人たちは、どういうタイムスパンでやっていくといいのでしょうか。
あるいは定年後を見越した場合に、どれくらいの準備期間が必要なのか不安に感じる人も多いと思いますが、この3年一区切りは、どのようなところから出てきた考え方なのでしょうか。
楠木 今、お話しされているのは、期限やライフサイクルの部分だと思いますが、まず定年の準備は50代からやれば間に合うというのが私の実感です。30代など早い時期から準備しなくてもいいですし、むしろその時期は本業のほうをきちんとやればいいでしょう。ですから、50代ぐらいから取り組み始める、やっていくのはどうかと思います。
3年一区切りは、取材をしていて取材先の彼らの発言で気がついたことです。会社員をやりながら、阪神大震災で結果的に蕎麦屋をやることになった人が、ある一定のお客さんがついて、自信のある蕎麦を出せるようになったのに「3年かかった」と言っていました。また、この人は定年後だったかもしれませんが、起業されたある人の場合、キャリアとメンタルヘルスの関係で「落ち着くまでに3年かかった」と言っていました。
このように、3年を一区切りで話す人が非常に多かったのです。1年あるいは5年という声はほとんど聞きませんでした。ということで、「石の上にも3年」ということわざもありますように、人があるポジションを少し変えるのに、3年は一つの期間だという実感があったので、3年ということを本に書かせてもらいました。
一つの変わるパターンが3年で、それを3回ぐらい続けていると10年ぐらいになる。話を聞いていたときの私の実感ですが、そうして一つのことをやっている人は、自分の土俵を作っているのです。それで大きなお金を儲けることができるかどうかは別として、自分なりの居場所や自分なりの土俵をつくっていると感じています。つまり、「10年やればものになる」ということを、話を聞きながら感じていたので、それが期間的なところになっています。ただ、これは私の取材から得た実感なので、根拠がものすごくあるのかというと、ことわざぐらいしかないレベルです...