●思考ベースではなく、行動ベースで準備する
―― 次に、楠木先生にどのように行動していけば良いのかという行動様式について、お話を伺いたいと思います。先生はご本の中で「頭で考えるよりも行動様式で考えることが大事」だとお書きになっていますが、これはどういうことでしょうか。
楠木 定年前後の人にずっと話を聞いていますが、定年後の状況などの話を聞いたとき、一番印象に残っているのは、やはり行動が大事だということです。
つまり、頭で何か考えて動くよりも、まず行動して、その中で宿題をもらい課題を解決していくというパターンの人は非常にうまくいっていると率直に感じました。つまり、人は頭で考えてから行動するよりも、まず行動してその知見を持って何かを考えていくことのほうが圧倒的に大切で、行動できる人は何かを見つけ出しているというのが、私の実感です。
一方、頭ではいろいろ考えているけれど、「いや、そうなるとなかなかうまくいかないな」といって足が動いていない人は、定年後の居場所や、会社の仕事に代わるものを見つけるのがなかなか難しいだろうと何度も感じてきました。
そのため、割に順調にやっている人の行動の部分を取り出して、少しまとめて考えてみました。それを7か条にして本などで紹介していますが、それぐらいどう行動するかが大事だというのが、私が話を聞いてきた実感です。
その前提を少し話すと、人間はだいたい行動ベースになると、同じようなことをするということです。つまり、頭の中ではいろいろと講釈を述べるのですが、行動ベースになると、あまり違いのないことをします。そのため、行動の部分をきちんと見つめていくことも大事だというのが、取材面でもう一つ感じたことです。
●定年準備のための第1条:焦らずに急ぐ
―― なるほど。ではぜひ、その7か条を個別に聞いていきたいと思います。まず先生が第1条で挙げているのが、「焦らずに急ぐ」ことです。
楠木 そうですね。これは矛盾していることかもしれませんが、先ほども少し話したように、(定年準備は)50代でも十分間に合うのですが、何か思いつきで楽しいことができたり、社会とつながることができたりという、そのことがすぐに身につくわけではありません。やはり一定の試行錯誤と準備が必要だと考えています。
その準備についてですが、一つは自分に向いているものを...