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カネカのパタハラ炎上に学ぶSNS対応の危機管理と課題

本質から考えるコンプライアンスと内部統制(6)SNS対応を誤ったパタハラ事案

國廣正
弁護士・国広総合法律事務所パートナー
概要・テキスト
大手の総合化学メーカーがパタハラでSNS対応を誤った事案から、危機管理の問題点を考える最終話。2019年6月に起こったこの事案は当時、SNSで大炎上し、株価がその年の初来最安値まで下落したのだが、なぜそこまで大きな問題となったのか。経過を追いながらその要因について分析するとともに、シリーズ講義の総まとめとして、コンプライアンスを法令遵守と捉えることの危うさ、危機管理の最重要概念としてのレピュテーション・リスクなどについて改めて強調する。(全6話中第6話)
時間:10:31
収録日:2023/01/16
追加日:2023/06/07
≪全文≫

●パタハラでSNS対応を誤り、危機を招いた事案の経緯


 それでは、最終回ということですね。事例研究のその2ですが、SNSに関係するものです。SNS対応を間違えて危機を招いた事例になります。

 これは有名な事件ですから、実名を出してもいいでしょう。2019年6月に起きたカネカの事件です。カネカは大手の総合化学メーカーです。今からご紹介するのは、ここがSNS対応をパタハラで誤った事案です。パタハラとはパタニティ・ハラスメントのことで、(父親を対象とした)出産・育児に関するハラスメントのことを指します。このことがSNSで大炎上し、カネカの株価が2019年初来、最安値まで下がったという事件になります。

 どういう事件だったのはというと、男性育休に関する事件でした。カネカのある男性社員と共働きの妻とのあいだに長女が生まれました。1月のことですが、その年の4月に新居へ引っ越したので、3月25日から4月19日まで男性育休を取得したのです。

 これは、2019年ですから割と先進的な事例ではないかといわれそうなものですが、ところが、育休明けに出社した翌日、「きみ、大阪へ転勤」と突然言われたそうです。「え! 子ども、保育園に入って、ようやく育休が終わったばっかりなのに」として、男性はその転勤には応じるけれども、時期を1、2カ月だけ延ばしてほしいと会社に交渉しましたが、返事はノーでした。

 この段階から、妻のほうがツイッターに投稿を始めました。会社の名前は書いていないのですが、「信じられない。夫が育休から戻ったばっかりで」というように。それから会社との話し合いは続きましたが、会社側は「特別扱いするわけにはいかない」と、頑として応じない。そのプロセスを妻はずっとツイッターに載せています。この時点でも夫の勤務先は大手メーカーで連結1万人ぐらいの会社としか書いていませんでしたので、分からないのです。

 結局、転勤時期を先に延ばす希望が受け入れられなかったので、4月からずっと交渉していた夫も、6月には諦めて退職届を提出しています。この際、有給休暇の買い取り請求も拒否されています。こうして、夫は5月31日付けで退社し、妻はそのことを報告するツイートの最後に「#カガクでネガイをカナエル会社」と書きました。これでカネカは大炎上することになりました。

 6月1日からはネット上に「カ...
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