●「終身知創」の時代と日本の実態
では、第2話をスタートしたいと思います。第2話は「キャリアの危機」ということです。
前回は、ライフシフトに向けて現役が長くなることをぜひ意識してくださいというお話をしました。また、これを進めていくときのカギとして「アップデート」というお話をしたと思います。
私はそれを「終身知創」という言葉で呼んでいます。「終身」は終身雇用の関連で出てきた言葉ですが、雇用はなくなりますから、終身で雇われるのではない。むしろその途中ずっと続くのは、知識を創造していくこと、すなわち自分で学んで価値を生み出していくことです。終身にわたって、ぜひ知を創造し続けてほしいということです。
ところが、この図を見てください。これは、日本人がいかに知の再武装に無関心かということを示しています。大学を卒業した後は全然勉強しないのが日本人だということです。それに比して、OECDの各国では大学を卒業した後、高等教育でもう一度学び直している人がどれぐらいいるだろうということです。
ここでは、特にMBAや大学院のようなところで、最新のビジネスの知識や多彩な教養を学ぶことがテーマになっています。一番多いのは、左端のスイスです。それがだんだん下がり、真ん中の黄色いところがOECD平均ですが、日本はなんと最下位から2番目で、2.5パーセントにしか及びません。その程度の人しか大学を卒業した後には学んでいないということで、学びに対して非常に無関心なことが分かります。大学までの間に十分やり切ってしまい、「もう勉強は嫌いだ」という感じになってしまった、むしろそのような教育を受けたといえるかもしれません。
これは、終身知創が必要な時代、学び続けて「VUCAの時代」を生き延びていくべきことに対して、非常に逆行しているということです。おそらくわれわれのライフスタイルなり、学びに関する認識を改めなければならない時代に入ったということだと思います。
●キャリア観の変化と中年以降の粘土層化
そのような生き方をしている中、自分のキャリアを見失う人も出てきます。スライドは法政大学の石山(恒貴)教授の調査によるものです。グラフが二つありますが、左側のグラフでは、「出世したい」と思う人と思わない人が途中で交差し、「出世したい」という人と「出世は諦めた」という人が逆転するのが42.5歳。その後、後半になるにしたがって、「もう(出世は)いい」という人が増えてきます。
右側のグラフでは、「キャリアの終わりを意識していない」という人がどんどん減っていくさまを表しています。一方、『終わった人』という映画がありましたが、「キャリアは終わった」と意識している人がどんどん増えて、意識しない人との交差点が45.5歳ということです。
40代前半で「キャリアは終わった」と感じるのはどういうことかというと、それ以降はもうあまり努力しないということで、そのようになっていく人が増えてきています。このことをわれわれは「粘土層化」と呼んでいます。
組織の上のほうに粘土のような重い層があり、若い人たちがいろいろ言ってもズブズブ入っていくだけで、何の反応も起きず、変化もしない。むしろ変化を止めるような人になってしまうということです。学ばないことによる弊害が非常に大きいのではないかと思います。
実際に、「シニアと仕事をしていて困ることは何ですか?」というグラフを準備しました。これを見ていると恥ずかしくなりますし、たしかに「周りにこういう人がいる」という人もいらっしゃると思いますが、ひどいものです。「清潔感に欠ける」などといわれてしまいます。そのようになっていくということです。
●「アップデート」の必要性と能力ギャップ・意欲ギャップ
ここにある私の調査でも、シニアの人たちは給料泥棒ではないですが、なんとなく「お給料をもらっているのに、あの人たちは何をやっているのか」と思われる人たちが周りに渦巻いていて、「愚痴ばかり言っている」とか、「みんなのモチベーションを落としている」、そして「オブジェのようになっている」とまでいわれているのです。
そのようなこともあり得るというのは、われわれがいかに「アップデート」していく必要があるかを示唆しています。会社の中のキャリアについてはピラミッド型なので、ある意味仕方がないのですが、それで「もう終わった」と思って何もし...