●自分のキャリアの見通しを作るための「SECIモデル」
(前回の話を)もう少し平たい言葉で言おうとして表したのが、次の図です。
最初の“S”は、「自分がどんなノウハウ、コツ、経験を持っているか?」と聞かれたときに、どう答えられるかということです。自分の場合は、こんなノウハウを持っているということですね。
2番目の表出化(“E”)は、「自分の仕事の流儀は?」「自分流の職場への貢献法は?」ということを聞かれたときに、きちんと言えるかということです。すなわち、それを表出化しているか、ということです。
3番目(“C”)ですが、「誇れる実績は?」「その時どんな経験を得た?」というのは、要するに仕事として、単なる流儀で持っているのではなく、ちゃんとプロジェクトを組成して、きちんと成果を出したかということが問われるということです。それが3番目の“C”、つまりコンビネーションです。
4番目(“I”)は、「自社で学んだことは?」「後輩に伝えたいことは?」です。内面化して、自分ごとになった、実績に裏づけられた知恵は何かということがちゃんと言えるかどうかが“I”になります。人はこのように育っていくわけです。
この「SECIキャリアモデル」は、結局20代の人が覚えると一番いいのです。将来、自分は仕事をしながらSECIを回していくと心得れば、20代で一生懸命仕事をする意味については、「30代になったときに自分の仕事の方針を作るためにやっています」、また「40代になって、これをもとに大きな仕事をするために、今やっているのです」ということになる。ただ忙しいからやっているというだけの意味ではなく、将来の意味づけができるということです。
このように、自分のキャリアの見通しを作る意味で、「SECIモデル」は使えるのではないかと思います。以上のことを、次のスライドで少し分解して示します。
●年代ごとの「SECIモデル」と40代からの「パイ型ベース」
20代(“S”)は、徒弟制度、メンター、1on1などを通じて、暗黙知のため、自走を目指して経験を積み、徐々に文脈を意識して育んでいきます。自分の10年間は、ただ忙しく過ごしているのではない、次の10年のためにいろいろな知を吸収しているのだと捉えると、やはりやる気も出るでしょう。そして、勉強もすると思います。
次の30代(“E”)では、20代での経験(暗黙知)を表出化させて、自分らしく実践していく。専門性の軸や、どのように世の中に貢献していくのかの信念、方向性を定めるということです。30代になると、係長になったり課長になったりすると思いますが、そのときに「仕事はできるが、この人には信念がない」とか、「仕事はそこそこできるが、メッセージ性が足りない」と言われる人が出てきます。それは、ただ(目の前の仕事を)やっているだけの人だからです。そうではなく、自分も一皮剥けるような形に自分を押し上げられるかどうかが、表出化の際のポイントかと思います。
次の40代(“C”)、コンビネーションが重要なところです。「30代での知の文脈をキープしながら、コアとなる経験や専門性を活かして、業務の分野や範囲を広げる」とあります。30代で、ある一定の自分のベースはできますが、そこで「もう終わった」という人も結構いるわけです。そうすると、第2話でお話ししたような粘土層に突入して終わりに向かい、それ以上広がらなくなってしまいます。
40代はその分岐点のようなところですので、この頃に安住・安心することなく、もう一皮剥けるようなことを行う。これが「広げる」ということです。ここで、コンビネーションに向かってもらいたいと思います。
そのときのキーワードが、(図の)真ん中にあるギリシャ語のπ(円周率)です。「パイ型ベースを広げる」というのが、一つのキーワードです。左側の足は、これまでの専門や今の業界での知、また日本、さらに仕事を合理的にやってきていますからサイエンスなども入ってくるかもしれません。もう1本の足は、今後コンビネーションしていくための違う世界です。異なる専門、他業界、世界、(サイエンスに対する)アートなど。
さらにもう一つ重要なのは、これらの上に乗っている棒で、教養や時代認識を指します。「世界をどう見ていくか」という大きな視界を保つことも、40代では必要になります。20代~30代は一生懸命頑張って仕事をやっていますから、どうしても視野狭窄になりがちです。これを広げるのが、π型の上の1本棒の教養です。
40代では、このように、学ぶべき領域が非常に広くなります。しかし一方で、30代までは視野狭窄になったり、あるいは専門性を深めたりするようにきてい...