キケロ『老年について』を読む
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
老年における賭博とは?100円からでも楽しめる競馬の魅力
キケロ『老年について』を読む(7)農夫たちの快楽と賭博の嗜み
哲学と生き方
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
老年期の喜びとして、キケロは畑仕事を挙げている。当時の貴族は自分の農園を奴隷たちに耕作させていたので、かけた努力がそのまま返ってくることを知っていた。人生を十分に生きたあと農地に住み、百歳まで耕作を続けたローマ人もいるという。もう一つ、キケロが挙げているのは賭博である。そこで50年以上の趣味である競馬について語る本村氏。初心者でも始めたその日から楽しめる、その魅力とは何か。(全9話中第7話)
時間:12分38秒
収録日:2023年6月12日
追加日:2024年2月17日
≪全文≫

●老年になって味わう農夫の喜び


―― (老年期の)喜びとして、もう1つキケロが挙げているのが農夫たちの快楽です。いくつか読んでみます。

 「今度は農夫たちの快楽に移ろう。それは信じられないくらいわしには楽しいもので、いかなる老年によっても妨げられぬし、賢者の生き方にさも近いとわしには思われるものなのだ」

 「大地は決して出費を拒まないし、受けとったものを利息なしで返すことも絶えてない。」

 特に「葡萄づくりの楽しみに飽きるということはない。」

 施肥の効果、羊の放牧、蜜蜂なども楽しい。田舎に住んでいて、畑を耕している元老議員の話。老人には畑仕事以外には骨牌と骰子を残してくれればいい。入念な園をつくる喜びは老年に許されている。

 「マルクス・ウァレリウス・コルウィーヌスなどは、既に十分に人生を生きた後で農地に住んで耕作に従い、百歳まで熱中し続けた」

 かなり具体的に書いていて、当時の貴族などは自分の農園があり、農園が身近ということもあるのでしょう。先生はここに書かれている農夫の喜びをどのように感じられますか。

本村 家人が家庭菜園をやっていたので私も少し手伝ったことがありますが、狭い領域の中でも1年たつと、いろんなものができます。2人家族なら、それを食べるだけで十分というぐらいです。

 まして大きな農園なら、いろんなものがあります。だから手をかけたものが、必ずどこかで戻ってくることを知っている。人間のやりとりでは、手をかけても戻ってこないことのほうが多く、それがためにいろんな苦しみや嫌な思いをします。これは生き方のすごく大事なところに関わる話なので、またあとで言います。
 そういう意味では、農業はかけた努力がそのまま返ってくる。だからこれを楽しみにしていれば、本当に楽しいのではないか。農夫がここに楽しみを持てるなら、元老院議員もある程度年齢が行ったら、現役は退いて今度は農園で仕事をすればいい。

 今まで奴隷たちに任せていた仕事を自分でやれば、またそこに楽しみを見いだすことができます。それはアンテナなり、センスなりの問題でもあります。

―― 「農地はこちらが出したもの、農地がそれを受け取ったものを利息なしで返すことはない」という表現があります。まさに今、先生がおっしゃった話ですが、ローマ社会でも当然、...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ(1)心理学研究と日本の幸福度
実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
前野隆司
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留
「50歳からの勉強法」を学ぶ(1)大人の学びの心得三箇条
大人の学び・3つの心得=自由、世間が教科書、孤独を覚悟
童門冬二
哲学から考える日本の課題~正しさとは何か(1)言葉の正しさとは
「正しい言葉とは何か」とは、古来議論されているテーマ
中島隆博
おもしろき『法華経』の世界(1)法華経はSFだ!
「法華経はSFだ!」というナラティブの神秘的体験
鎌田東二

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
川口淳一郎
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
片山杜秀
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
西多昌規
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(1)イノベーションと価値創造
価値創造において重要なのは未来から現在を見るという視点
遠山亮子
DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果
日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい
山本勲
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性
同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」
佐橋亮
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
西野精治