キケロ『老年について』を読む
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ギリシアの将軍が驚いたローマの元老院、老人の見識の高さ
キケロ『老年について』を読む(2)老年が公の活動から引き離される理由
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
老年になっても、公の活動から引き離されるとは限らない。肉体は弱っても精神的に役に立つ老人向きの仕事はあるだろう。カトーも元老院に指図する立場で、元老院自体が見識を持った老人を中心につくられていた。紀元前3世紀半ばにギリシアの将軍たちがローマに派遣された際も、元老院の人たちの見識の高さを記している。公の活動から老年が引き離される理由の一つに「記憶力の衰え」があるが、それは鍛練を怠ったからでもある。実際、法律家や神祇官は、歳をとっても多くのことを記憶している。(全9話中第2話)
時間:15分14秒
収録日:2023年6月12日
追加日:2024年1月13日
≪全文≫

●肉体が弱っても、老人向きの仕事はある


―― 続いて、それぞれの理由について解いていきたいと思います。第1の理由が「老年は公の活動から引き離されること」です。カトーがどう述べたか。

 「老年は公の活動から引き離すということ。どのような活動から、というのだ?若さと活力でなされる活動からか?それならば、肉体は弱っていても精神で果たされるような、老人向きの仕事はないというのか?」

 と問いかけるのです。あるいは1つの比喩として、こう述べます。

 「老人は公の活動に与(あずか)っていないと言う者はまともな議論をしていない。それはちょうど、船を動かすにあたり、ある者はマストに登り、ある者は甲板を駆けまわり、ある者は淦(あか)を汲み出しているのに、船尾で舵を握りじっと坐っている舵取りは何もしていない、と言うようなものである」

 さらにカトー自身の例を挙げて、こう返しています。

 「わしは、何をどのような仕方で行うべきかを元老院に指図しているぞ。悪事を企んで早(はや)久しいカルターゴーに対しては、ずっと以前から主戦論を唱えている。その国の殲滅を見届けるまでは、恐れることをやめぬであろう。
 その国を滅ぼす栄誉は、スキーピオーよ、不死なる神々がお前のために取りのけておかれんことを!」

 これはキケロが書いたものですから、ある意味、カルタゴ(カルターゴー)に対する考えをうまく取り込みながら、あたかもカトーがしゃべっているような設定になっています。このあたりのキケロの説については、どのようにお感じですか。

本村 大スキーピオ(スキーピオー)はカルタゴを決定的に打ちのめしますが、カルタゴは弱小国として認められます。そして彼らは商業交易が巧みだったので、すぐにある意味、復興してしまうのです。賠償金も、何十年かかるようなものを、せいぜい2、30年で払う。すると、カトーからすれば、また脅威に感じるようになってきます。

 その後の経過を見ると、最後のポエニ戦争、つまりローマ・カルタゴ戦争で指揮官を執るのが、この小スキーピオ(スキーピオー)です。だから結果論として、大スキーピオはハンニバルを打ち破り、小スキーピオがカルタゴを本当の壊滅に導く。そのシナリオが分かっているから、そのように言って...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
「50歳からの勉強法」を学ぶ(1)大人の学びの心得三箇条
大人の学び・3つの心得=自由、世間が教科書、孤独を覚悟
童門冬二
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人
楽観は強い意志であり、悲観は人間の本性である
これからの時代をつくるのは、間違いなく「楽観主義」な人
小宮山宏

人気の講義ランキングTOP10
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
プロジェクトマネジメントの基本(2)プロジェクトの複雑性とマネジメント
コスパが鍵!? 顧客満足につながる品質マネジメントとは
大塚有希子
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史