キケロ『老年について』を読む
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ギリシアの将軍が驚いたローマの元老院、老人の見識の高さ
キケロ『老年について』を読む(2)老年が公の活動から引き離される理由
哲学と生き方
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
老年になっても、公の活動から引き離されるとは限らない。肉体は弱っても精神的に役に立つ老人向きの仕事はあるだろう。カトーも元老院に指図する立場で、元老院自体が見識を持った老人を中心につくられていた。紀元前3世紀半ばにギリシアの将軍たちがローマに派遣された際も、元老院の人たちの見識の高さを記している。公の活動から老年が引き離される理由の一つに「記憶力の衰え」があるが、それは鍛練を怠ったからでもある。実際、法律家や神祇官は、歳をとっても多くのことを記憶している。(全9話中第2話)
時間:15分14秒
収録日:2023年6月12日
追加日:2024年1月13日
≪全文≫

●肉体が弱っても、老人向きの仕事はある


―― 続いて、それぞれの理由について解いていきたいと思います。第1の理由が「老年は公の活動から引き離されること」です。カトーがどう述べたか。

 「老年は公の活動から引き離すということ。どのような活動から、というのだ?若さと活力でなされる活動からか?それならば、肉体は弱っていても精神で果たされるような、老人向きの仕事はないというのか?」

 と問いかけるのです。あるいは1つの比喩として、こう述べます。

 「老人は公の活動に与(あずか)っていないと言う者はまともな議論をしていない。それはちょうど、船を動かすにあたり、ある者はマストに登り、ある者は甲板を駆けまわり、ある者は淦(あか)を汲み出しているのに、船尾で舵を握りじっと坐っている舵取りは何もしていない、と言うようなものである」

 さらにカトー自身の例を挙げて、こう返しています。

 「わしは、何をどのような仕方で行うべきかを元老院に指図しているぞ。悪事を企んで早(はや)久しいカルターゴーに対しては、ずっと以前から主戦論を唱えている。その国の殲滅を見届けるまでは、恐れることをやめぬであろう。
 その国を滅ぼす栄誉は、スキーピオーよ、不死なる神々がお前のために取りのけておかれんことを!」

 これはキケロが書いたものですから、ある意味、カルタゴ(カルターゴー)に対する考えをうまく取り込みながら、あたかもカトーがしゃべっているような設定になっています。このあたりのキケロの説については、どのようにお感じですか。

本村 大スキーピオ(スキーピオー)はカルタゴを決定的に打ちのめしますが、カルタゴは弱小国として認められます。そして彼らは商業交易が巧みだったので、すぐにある意味、復興してしまうのです。賠償金も、何十年かかるようなものを、せいぜい2、30年で払う。すると、カトーからすれば、また脅威に感じるようになってきます。

 その後の経過を見ると、最後のポエニ戦争、つまりローマ・カルタゴ戦争で指揮官を執るのが、この小スキーピオ(スキーピオー)です。だから結果論として、大スキーピオはハンニバルを打ち破り、小スキーピオがカルタゴを本当の壊滅に導く。そのシナリオが分かっているから、そのように言って...

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