●カエサルやアウグストゥスも守った「共和政」
―― 前回は、元老院の仕組みと、それが共和政を支えていたことをうかがいました。「独裁の世界史」という観点でいうと、これがだんだん変わっていって、まさに帝政に移行していくことになる過程をうかがいたいところです。総論的にお話しいただくと、どういう過程になりますか。
本村 非常に単純にいえば、中世のヴェネツィアの場合も同じですが、共和政にも民主政と似たようなところがあり、ある程度数的な規模が小さくないと、うまく機能しなくなる。大きくなっていくときに、変質せざるを得ない局面を迎えるわけです。
ローマの場合は、ちょうどその時にカエサルが出てきました。カエサルでさえ、共和政を壊すなどとは言わないわけです。実質的には「三人委員」といいますか、クラッスス、ポンペイウスと自分とで権力を独占するようなところがあるわけだけれども、建前上はあくまでも共和政を守るのです。
アウグストゥスも同様で、「自分はいわゆる独裁者や王のような特別な地位にあるのではなくて、唯一自分が特別な地位にあるとすれば、権威において優れているだけなのだ」と彼は言って、建前は共和政を守っていくわけです。
しかし、彼らの守った共和政が、どこまでかつての元老院貴族が中心になって引っ張っていった共和政と近かったかは疑問です。帝政期になってくると、元老院で議論をしても、結論は最初から皇帝のほうから最初に指示されているようなことが起こってくるようになります。
●暴君も賢帝も元老院次第だった元首政初期
本村 このように、いわゆるローマの帝政(元首政)では事実上は独裁政であっても、形においては共和政を守るのです。だから紀元1世紀に出てくるローマの悪帝たち、カリギュラやネロ、ドミティアヌスなどのいわゆる「暴君」らは元老院から嫌われます。彼らは元老院を軽視するところが決定的にまずくて、つまり共和政の伝統を守っていないことになったからです。
ただし彼らは庶民には必ずしも悪評ではなく、典型的なのはネロですけれども、意外に庶民には人気があったといわれています。それでも彼は元老院貴族を軽視したり、その意向を大事にしないようなことがあり、最終的には元老院貴族から見向きもされなくなって、自害せざるを得なくなります。
だから、多くの地域がどんどん国家の中に入ってきてロー...