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なぜ古代ローマの500年続いた共和政は衰退していったのか

独裁の世界史~ローマ編(4)共和政の変質と終焉

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
情報・テキスト
ローマが版図を拡大し帝国化するに従って、共和政は次第に衰退を迎えることになる。カエサルやアウグストゥスの頃には幅を利かせた元老院の権威も、軍人皇帝の時代になると顧みられない。悪帝や五賢帝の時代は、その過渡期といえるだろう。(全4話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:38
収録日:2019/12/19
追加日:2020/05/25
≪全文≫

●カエサルやアウグストゥスも守った「共和政」


―― 前回は、元老院の仕組みと、それが共和政を支えていたことをうかがいました。「独裁の世界史」という観点でいうと、これがだんだん変わっていって、まさに帝政に移行していくことになる過程をうかがいたいところです。総論的にお話しいただくと、どういう過程になりますか。

本村 非常に単純にいえば、中世のヴェネツィアの場合も同じですが、共和政にも民主政と似たようなところがあり、ある程度数的な規模が小さくないと、うまく機能しなくなる。大きくなっていくときに、変質せざるを得ない局面を迎えるわけです。

 ローマの場合は、ちょうどその時にカエサルが出てきました。カエサルでさえ、共和政を壊すなどとは言わないわけです。実質的には「三人委員」といいますか、クラッスス、ポンペイウスと自分とで権力を独占するようなところがあるわけだけれども、建前上はあくまでも共和政を守るのです。

 アウグストゥスも同様で、「自分はいわゆる独裁者や王のような特別な地位にあるのではなくて、唯一自分が特別な地位にあるとすれば、権威において優れているだけなのだ」と彼は言って、建前は共和政を守っていくわけです。

 しかし、彼らの守った共和政が、どこまでかつての元老院貴族が中心になって引っ張っていった共和政と近かったかは疑問です。帝政期になってくると、元老院で議論をしても、結論は最初から皇帝のほうから最初に指示されているようなことが起こってくるようになります。


●暴君も賢帝も元老院次第だった元首政初期


本村 このように、いわゆるローマの帝政(元首政)では事実上は独裁政であっても、形においては共和政を守るのです。だから紀元1世紀に出てくるローマの悪帝たち、カリギュラやネロ、ドミティアヌスなどのいわゆる「暴君」らは元老院から嫌われます。彼らは元老院を軽視するところが決定的にまずくて、つまり共和政の伝統を守っていないことになったからです。

 ただし彼らは庶民には必ずしも悪評ではなく、典型的なのはネロですけれども、意外に庶民には人気があったといわれています。それでも彼は元老院貴族を軽視したり、その意向を大事にしないようなことがあり、最終的には元老院貴族から見向きもされなくなって、自害せざるを得なくなります。

 だから、多くの地域がどんどん国家の中に入ってきてローマが帝国になり、規模が大きくなると、共和政も何らかの形で変質せざるを得なくなります。その変質が露骨な独裁政という形を取ったとはいえないわけですが、それがローマの元首政期の初期の時代ではないかと思います。

 紀元2世紀頃には「五賢帝時代」が80年ほど続きます。五賢帝とは、要するに元老院貴族を大事に扱った皇帝たちです。この頃は皇帝に絶大な権威や権力が集まりましたが、少なくとも表面的には元老院の意向を重んじる。自分の意見であっても、それを元老院に諮り、それなりの手続きを経て決定する。そのような共和制の建前や形式をきちんと守ることで、いわゆる「五賢帝」と称される皇帝になっていったわけです。

 共和政という伝統でいけば、五賢帝時代のローマの帝政とは、ある種共和政が変質した、つまり規模が大きくなった国家の中で元老院が優れた人を最高権力者にして、かつ自分たちの意向を守ってもらうようなシステムだったのではないかと考えられます。


●皇帝の独裁を抑制する存在だった元老院のたそがれ


本村 ローマは、カリギュラ、ネロ、ドミティアヌスという暴君、悪帝、愚帝を経験した後、このような独裁者を排除して元の共和政に戻そうということを、まともに議論していきます。

 ただ、議論はしても、すでに規模が大きくなっているため、共和政をかつてのように保つことは、もうできなくなっています。そこで、ネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウスという五賢帝のような見識のある、賢い人々を戴くことで、その時期における共和政の伝統はうまく機能していったのだと思います。

 ところが、それからまた80年ほどたつと、また違う形になっていくわけです。要するに、共和政はある程度人口規模が小さいときならば成り立つけれども、大きくなっていくと変質せざるを得ない。その変質の中で、どれだけ独裁のシステムを抑止できるか。やはりそこにかかっているのではないかと思います。

―― 前回お話があったように、元老たちと民衆の関係性が、親分子分に支えられた一家のようだとイメージすると、確かにどんどん領域が広がるにつれ、単純にそれを拡大していくのは不可能になっていきます。いろいろな勢力が入ってくることになるので、より強い権力が必要になるということも、よく分かりました。ただ、「独裁の世界史」ということで見た場合、今...
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