●カリグラの登場による帝政の転回
表向きは独裁者を許さないことが、カエサルからオクタヴィアヌス、アウグストゥスに至り、結局ローマ人の意識が共和制ではなく帝政、つまり元首という一人の人物に全権を委ねるシステムに出来上がっていくわけです。
もちろん、以前にもお話ししたように、皇帝になる人物は自分から「絶対権力者です」とか、「国王です」とか、そういうことは言いません。あくまでも自分は全権を握るのではなく、むしろ全権をローマ国家に返す姿勢を取りながら、周りが彼らに委ねる形でローマの帝政が成立しました。それからアウグストゥス、ティベリウスとうまくいき、ティベリウスが亡くなった後にカリグラという非常に若い皇帝が登場しました。最初の約半年は良かったのですが、一説によれば神経系統の病気を患い頭がおかしくなったということですが、非常に残忍な皇帝になります。
●母や側近を殺害し、自害したネロ
ネロは暴君の代名詞のようにいわれますが、母親を殺し、自分の側近を次々に死に追いやり、最終的には自分が追い詰められ、自害せざるを得なくなりました。
一方、彼はパフォーマンスも好きでしたから、民衆の前に芸人あるいは芸術家のごとく出て行って、戦車競技に参加したり、竪琴の演奏をバックに自分で歌ったり、詩を創作したりと、人前で目立つようなパフォーマンスを行いました。ですから、民衆からすれば皇帝が祝祭的なことをやるというので、それなりに面白い催し物になったのではないかと思います。
●皇帝の2つの資質――グラビタスとレビタス
ローマの皇帝には2つの資質が必要だとよくいわれます。1つはグラビタス(Gravitas、重々しさ)で、もう1つはレビタス(Levitas、軽々しさ)です。皇帝である以上は、重々しいところもなければいけないが、それが過ぎると今度は嫌われるところがあるということで、この1つの典型がティベリウス帝ではないかと思います。
逆に、ある程度軽々しい部分も持っていなければいけないのですが、それがいきすぎてしまったのが、人前でパフォーマンスをやったりして目立ちたがりであったネロです。
ですが、民衆からすれば、彼はさまざまな見世物興行を盛んにやりますから面白い面もあったと思います。ところが、国家の側からすれば、多額の負担を背負うことになるため、国家財政は破綻していまいます。破綻するとそ...