五賢帝時代~ローマ史講座Ⅷ
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五賢帝の中で最も優れていたのはアントニヌス・ピウス
五賢帝時代~ローマ史講座Ⅷ(7)最も優れたアントニヌス・ピウス
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
ハドリアヌスの後を継いだのは、アントニヌス・ピウスである。五賢帝の中では、最も地味で特筆すべき功績もない皇帝だといわれている。だが、本村氏は彼こそが五賢帝の中で最も優れていた、と高く評価する。それはなぜか。東京大学名誉教授の本村凌二氏の解説を聴こう。(全9話中第7話)
時間:10分39秒
収録日:2018年2月8日
追加日:2018年6月4日
カテゴリー:
≪全文≫

●ハドリアヌスの神格化をめぐる議論


 アントニヌス・ピウスの「ピウス」ですが、「敬虔な」と意味する言葉で、後に付けられたものです。その理由についてお話しします。

 (前の皇帝である)ハドリアヌスは晩年にも、ちょっとした事件の中で元老院貴族を処刑に追いやるということがありました。治世の初期と晩年の時期に、元老院貴族にそのようなことがあったため、貴族たちからはずっと反感の目で見られていました。

 皇帝は亡くなると神格化されます。神々の1人になっていくわけです。ただし、カリグラやネロ、ドミティアヌスはもちろん神格化されませんでした。そうした中、元老院貴族を何人か処刑しているということで、ハドリアヌスも暴君同様と考えられていたのかもしれません。ハドリアヌスの神格化は周囲の人々が反対したため、実現しそうにありませんでした。

 一方、それよりも以前に、すでにアントニヌスは後継者として任命されていました。そこで、ハドリアヌスが神格化されない動きが出てきた時、彼はそれに対して猛然と反論。「ハドリアヌス皇帝陛下の意志によって私は後継者に任命されました。そのハドリアヌス陛下を神格化しないということは、私を後継者として認めないのと同じことです」と言ったのです。つまり、もしハドリアヌスの神格化が実現されないならば、私は皇帝の位から降りるという意思を示して、彼はその実現に努めたということです。


●五賢帝の中で最も優れたアントニヌス


 アントニヌスは、おそらく私の見通しでは五賢帝の中でも一番優れていたのではないかと思うほどの皇帝です。23年ほどの「アントニヌスの治世には歴史が無い」といわれています。「歴史が無い」とは、つまり何も起こらなかったということです。何も起こらなかったということは、本当は一番いいはずです。平穏に終わっていたということですから。もちろん小さな戦争のようなものはありましたが、大きな戦争は無ければ、特に反乱もありませんでした。

 また、アントニヌスは人格的に非常に優れた人物で、物事を決めるときには元老院議員のいわば顧問団のようなものを作って、その中で話し合いを行いました。しかも、彼は周りの人たちの話もよく聞くし、さらに冗談がうまかったので、話し合いは非常に和やかな雰囲気の中で行われ、物事を決めていったのです。

 戦争も起こらなければ反乱も起きないという...

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