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ローマ帝国の衰退を3つの観点から考える

教養としての世界史とローマ史(10)ローマ帝国の衰退

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
情報・テキスト
ローマ帝国が衰退した理由について、「経済の衰退」・「帝国の衰退」・「文明の変質」の3つから説明が展開される。そして本村凌二氏は、ローマ帝国の失敗から学び、現代のわれわれは教訓を得るべきだと言う。それはどのような教訓なのだろうか。(2018年11月28日開催10MTVオピニオン特別講演会<教養としての「世界史」と「ローマ史」>より、全11話中第10話)
時間:10:14
収録日:2018/11/28
追加日:2019/08/10
タグ:
≪全文≫

●ローマ帝国の衰退を3つの観点から考える


 ローマ帝国の衰退というものを、古代末期論として考えてみます。これは、多神教一神教という切り口から見てもそうですが、ローマ帝国はなぜ衰退したのかとか、それから、なぜローマで一神教が普及したのかということは、皆さんにとっても非常に大きなテーマですし、私自身もよく考えることです。ローマ帝国衰亡論に関しては、ある人が数えたら210個もあるというくらい、いろいろな議論が提示されています。ですから、1つの理由には限らない、いろいろな連鎖の中で起こっていることです。

 しかしながら、それを非常に分かりやすくいえば、「経済の衰退」、「帝国ないし国家の衰退」、それから「文明の衰退」、この3つで語ることができると思います。文明に関しては、衰退ではなくて変質と言った方が良いかもしれません。


●経済の衰退


 経済の衰退の場合、インフラの劣化を挙げることができます。例えば、アッピア街道にある道路や水道橋といったものは、時間が何百年もたっていきますと劣化するわけです。それをメンテナンスすることができたかどうか、これが1つ大きな問題になります

 それから、当時は奴隷制がありましたから、ものごとの合理化をしていかないわけです。つまり、より効率良くしていくのではなく、結局奴隷にやらせればいいという考え方になってしまったわけです。そうすると、イノベーションをしていこうという気持ちが、ローマでは育ちにくかった。そういうことが1ついえると思います。


●帝国の衰退


 帝国の衰退に関しては、当然国家というものは徴税をしていかなければならないのですが、その徴税を行うローマ帝国の皇帝の求心力が下がってしまいました。

 それから、軍隊が力を持ってくるようになって、軍隊を制御できなくなるわけです。ですから3世紀のローマは、軍人皇帝の時代だといわれます。シリーズ内で申し上げたように、中国の三国志と同じ時代なのですが、ローマでも軍人をうまく制御できなくなったり、それから彼らを養うための財政的基盤が必要になったりしていきます。

 そういったものが非常に難しくなっていき、国家を維持していくことが困難になってしまったわけです。


●文明の変質


 それから文明の変質としては、多神教の時代から世界公民を扱う一神教の時代になった、このことが重要です。つまりもともとのローマは、ものごとの考え方に関して非常に寛大でした。しかし、他人の考え方も認めるという考え方から、クリスチャンという唯一の世界市民だけを認めるといった考え方に変わっていくわけです。そこには大きな文明の変化があり、人々のものの考え方や行動規範というものが大きく変わっているはずです。

 そして、それがどのように連鎖して、いわゆるローマ帝国の滅亡であったり、あるいは古代末期の変質であったり、そういったことが言えるのか。それは、短い講義では説明できませんが、そういった要因が絡まり合っているわけです。


●「失敗の歴史」から教訓を学ぶ


 最後にまとめのような話をします。ローマ帝国の衰退に関しては今、経済の衰退、帝国ないし国家の衰退、それから文明の衰退という話をしました。それを受けて、やはり歴史には何か未来のシナリオが潜んでいる、そういった話をします。歴史を見ることによって、未来の1つの道筋が見えてくるのだと思います。絶対そちらの方に行くとは限りませんが、そういうシナリオがあるだろうということです。

 トルストイの『アンナ・カレーニナ』の冒頭の言葉ですが、「幸福な家族は似たようなものだが、不幸な家族は数限りない」というものがあります。それをいいかえると、「成功の歴史は似たようなものだが、失敗の歴史は数限りがない」となります。これは、成功の歴史をまねしても、なかなか成功しない。だからわれわれは、むしろ失敗の歴史の方を学ぶべきだと考えられるでしょう。世の中には、成功の歴史を学べばすぐ成功すると述べる、ハウツーものもたくさんあります。ですが、実際にそれが実現するかどうかは分かりません。


●敬虔な心と誠実さを失ってはいけない


 世界史の中でのローマ人ということを考えたときに、何が彼らを強力にしたのかといえば、彼らはやはり敬虔な心が非常に強かったということが挙げられます。それは、ローマ人の誠実さともいえます。だからローマ人は、戦争をするときも割と正攻法で行くわけです。もちろん、いろいろな手練手管は使いますけども、基本的には正攻法なのです。

 例えば、三国志に出てくる諸葛孔明が使うような手口は使わないわけです。ですから、諸葛孔明とカエサルが戦ったら、1回目は絶対にカエサルが負けると思い...
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