●教養の基礎となるのは古典と世界史である
東京大学名誉教授の本村凌二です。私はテンミニッツTVにすでに何本か出演しているのですが、今回は特に世界史とローマ史に関してお話ししていきたいと思っています。
その前に、今回のテーマは「教養としての(世界史とローマ史)」ということで、教養の基本とは何かということについて、まずお話しします。私は、それは古典と世界史だと思っています。「教養とは何ですか」と言われたら、それが一番基本的なことだと思います。
●古典をじっくりと読むことが大事
では、古典とは何でしょうか。古典にはもちろん『イリアス』や『オデュッセイア』のように、非常に古い時代に書かれたものがあります。20世紀になってからは、例えばジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』、それから19世紀にはトルストイの『戦争と平和』などがあります。あるいはそういった文学的な古典に限らず、社会科学上の古典もあります。例えば、アダム・スミスの『諸国民の富』やマルクスの『資本論』などがこれに当たります。
『資本論』については、少し自慢話になるのですが、1つエピソードがあります。私は、10年くらい前に読売新聞の書評委員を2年間務めました。その時、その中に橋本五郎さんという政治記者の方がいらっしゃいました。今は特別編集委員をやっていらっしゃいます。その方と一緒に書評委員をしていたので、書評委員会が終わった後、いつも飲み会のような感じになり、お話をしました。橋本さんと私は年が近かったこともあり、いろいろな話をしました。
その中で橋本さんは、「本村さん、われわれは、もうそろそろ定年になってゆっくりしたら、『資本論』をちゃんと最初から最後まで読みたいね」と話し掛けてきました。それに対して私は「橋本さん、ちょっと申し訳ないです。私、大学1年生の時にもう読みました」と答えました。すると、橋本さんは少し仰天なさって、「僕の前で『資本論』を最後まで読んだと言ったのは本村さんで2人目です」とおっしゃいました。そこで、「1人目は誰ですか」と聞いたところ、「不破哲三さんです」とおっしゃいました。不破さんのことは、年配の方であればおそらくご存じだと思います。
ただ私自身の場合、若かったですし、別に初めから歴史を勉強しようと思っていたからその本を読んだのではありません。私が大学に入ったのはちょうど19...