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「歴史の同時代性」に着目すると歴史をより深く理解できる

教養としての世界史とローマ史(5)歴史の同時代性

本村凌二
東京大学名誉教授
情報・テキスト
ザマの戦い直前に交渉するスキピオとハンニバル
世界史を見ていく上で切り口となるものに、「歴史の同時代性」がある。世界の歴史を見ていくと、異なる地域であるにもかかわらず、同じ時代に似たようなことが起こっていることが分かる。このような「歴史の同時代性」に着目することで、歴史をより深く理解することができる。(2018年11月28日開催10MTVオピニオン特別講演会<教養としての「世界史」と「ローマ史」>より、全11話中第5話)
時間:05:50
収録日:2018/11/28
追加日:2019/07/27
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≪全文≫

●世界の歴史には同時代性というものがある


 世界史の調理法ないし切り口の2つ目として、歴史の中における同時代性というものがあります。例えば、紀元前202年はローマ史で見れば、スキピオがカルタゴのハンニバルを、今のチュニジアにあるザマというところで破りました。それまではローマが劣勢でしたが、スキピオが勝利したことによって、いわばその後のローマ帝国の基盤が築かれたのです。

 スキピオは、ハンニバルに対する勝利で、救国の英雄としてたたえられました。それまで劣勢だったローマを救ったからです。しかし、英雄視されると当然、気に入らない者たちが、つまり反スキピオ派が出てくるわけです。そうして10年後ぐらいに、ある軍団を指揮していた時の使途不明金があるということで、スキピオは告発されてしまいます。

 最終的には裁判にも有罪にもなりませんでしたが、スキピオは汚名を着せられたこと自体に憤然として、そのままローマを去ってしまい、二度と帰ってきませんでした。よく「罪の文化」と「恥の文化」という対比が使われますが、ローマはどちらかというと、恥の文化なのです。つまり、罪があったか否かよりもむしろ、自分が汚名を着せられたこと自体、スキピオは釈然としない思いを持ったということです。

 同時代性の話に戻りますと、そのハンニバルとスキピオとの戦いでスキピオが勝利を収めたのと同じ年に、実は東に目を向けると、垓下(がいか)の戦いがありました。項羽と劉邦との戦いが、ハンニバルとスキピオとの戦いと同じ年にあったのです。そこから生まれた「四面楚歌」という言葉が有名ですが、劉邦が項羽を破って、漢の国の起点をつくりました。これはつまり、ユーラシアの西と東とで世界帝国に向かう決定的な事件が起こっていることを意味します。


●ローマ帝国と漢帝国との同時代性


 同時代性のもう1つの例として、それから500年ほどたった後、2世紀の末から3世紀の時代に目を向けてみます。ここでもやはり、ローマ帝国と漢帝国とで同じようなことが起こっています。一方の漢帝国は、この時にはもうほとんど解体状態で、有名な三国志の世界になっています。魏、呉、蜀に分かれて、およそ80年にわたって分裂した状態になります。そしてその後、魏によってある程度統一されます。

 他方、同じ時期のローマは、「軍人皇帝の時代」、あるいは「3世紀の危機」と呼ばれたりしますが、同じように非常に分裂した状態でした。しかし、ローマ帝国の場合はうまく切り抜けました。その後、ディオクレティアヌスやコンスタンティヌスのような皇帝が出てきます。ローマ帝国は、その時期いったん立て直して、やがてまたもり返していったわけです。逆にいえば、そのローマ帝国ですら最終的には滅亡に向かわざるを得なかったことは、1つの重要な問題だと思います。


●文学における同時代性


 続いて、同時代性ということで中世に当たる14世紀を例に挙げることができます。中国の有名な話に『水滸伝』というものがあります。180人の義賊の武勇伝が延々と語られる物語です。ここでイングランドに目を向けてみると、『ロビン・フッド』の物語があります。これも、義賊の話として、俗謡の中で歌われてもてはやされました。

 これらはちょうど、非常に封建的な荘園権力などの力がある中で、そういった権力やあるいは修道院に対する反感を背景に、同じような時期に同じようなものが登場していることを意味します。これは別に、互いにまねをしているわけではないのですが、洋の東西でともに起こっている現象だと言えます。
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