●生物進化はDNAの遺伝と突然変異による
こんにちは。静岡県三島市にある国立遺伝学研究所の教授をしています、斎藤成也です。また、総合研究大学院大学の教授と、東京大学大学院の生物化学専攻の教授も兼任しています。今回は、核DNAデータを中心に探る日本人のルーツということで、お話をしていきます。
まず、生物の進化(evolution)の根本ですが、DNAが親から子どもに伝わることが基本です。親から子というのは、普通の親子関係を意味しますが、実はDNA分子の複製(replication)が、親分子(molecule)、子分子(molecule)であることが人間の親子関係の一番の根本です。ただ、親と子は少しずつ違います。人間の場合、父親の精子と母親の卵のそれぞれのゲノムが合わさって子どもができるので、自分の両親それぞれ半分ずつしか共通点がないのですが、さらに大事なのが突然変異です。
チャールズ・ダーウィンは、1859年に『種の起原』を著しました。「親から子に伝わる。しかし突然変異が起こる」ということを19世紀当時の彼は「descent with modification」(「変更を伴う継承」と訳します)と呼びましたが、親から子に、今の言葉でいえばDNA(遺伝物質)が伝わるとき、少しずつ変化が起こるということを、その書の中ですでに彼は彼なりの言葉で説明しています。これは現在でも正しいのです。現在の生物学でいえば、DNAによって親から子に遺伝物質が伝わる中、たまに突然変異が起こり、その蓄積によって、生物進化が起こります。
約40億年前の生物の誕生から現在まで、非常に多様な生物が生まれてきましたけれども、この多様性の根本は突然変異です。われわれ人間の中の個人的な違いも、これも突然変異です。唯一、例外というと失礼かもしれませんが、一卵性双生児、いわゆる双子は生まれたとき全く同じなのです。ただ、10年20年と育つ間に、今度は体細胞突然変異というものが出てきますので、双子であっても実は詳しく調べると、DNAが少しずつ違ってくるということが知られています。
●日本列島にやってきた人々はアフリカから来た
そういうことを基本にして、私は最近、日本人あるいは日本列島人という言葉を使わずに「ヤポネシア人」といっていますが、それについてお話をしていきます。
日本人、あるいは日本列島に住んでいる人々がどこから来たかというのは大問題ですが、ずっとたどりますと、それはアフリカです。今、英語では「Out of Africa」といいますけれども、世界の生物学、自然科学を率先しているのは、残念ながら現在でも欧米の研究者です。そして彼らのバックボーン、世界観には、まだキリスト教の思想が入っています。『創世記』はユダヤ教・キリスト教の旧約聖書ですが、その次の第2巻がモーゼの『出エジプト』です。それになぞらえて「出アフリカ」が使われており、もともとわれわれの祖先は、10万年前か、あるいは20万年前か、まだはっきりしていませんが、そのほど古い時代にはアフリカにしかいませんでした。それがだんだんとアフリカを出ていって、やがて日本列島までたどり着き、最終的にはわれわれの祖先となった、ということがほぼ確定されています。
●アフリカから人類の祖先は3回にわたり出ていった
ところが、この「出アフリカ」ですが、アフリカを出ていったことは、われわれの祖先よりもずっと前に、2回起こっています。その2回目、つまり後の方がネアンデルタール人、および謎のデニソワ人の共通祖先だと考えられていますが、だいたい40万年から50万年前、彼らの祖先がすでに一足先にアフリカから出ていきました。そして、われわれの祖先がアフリカから出ていったとき、彼らの祖先を待ち構えていたわけです。
ですから、われわれの中にも少し、ネアンデルタール人、あるいはデニソワ人のDNAが伝わっているのです。その時、DNA(遺伝子)の交流があったからです。それは、世界地図を思い浮かべていただくと、今の中近東、メソポタミアの辺りです。時代的には文明が起こった1万年ぐらい前ではなく、もっとずっと以前ですが、そこで起こったと考えられています。
このような現代人とネアンデルタール人の違いは、上の図で示したように、昔から旧人(古い人々)と新人(新しい人々)といわれていますが、それがきれいにDNAで確認できます。上の方が新人、つまりわれわれです。下の方がネアンデルタール人で、昔から旧人といわれている人々です。ちなみに、このDNAとはミトコンドリアDNAのことですが、このように明確に違います。だいたい40万年ぐらいにアフリカのどこかで分かれて、ネアンデルタール人の祖先が先に行きました。
そして、ミトコンドリアは、実は混血の証拠を見つかることがなかなかで...