●ヤマト人の中に内なる二重構造がある
最後に、再び現代人の比較に戻ります。そこで、ヤマト人という二重構造モデルには、1つのある等質なホモジニアスなものであった中に内なる二重構造があるのではないか、と提唱したことについてお話しします。
さて上の図ですが、日本列島は、北海道のアイヌ人、南西諸島のオキナワ人、それからヤマト人の代表として、これまで東京周辺の関東地方人としました。つまり、東京の人といっても、いろいろな所から通っていますから、一応関東地方のヤマト人としました。それに加えて、韓国の人々も韓国の研究者からデータをいただきました。また、今回新たに、島根県の出雲大社のある出雲市の人々、鹿児島県のデータもいただきました。鹿児島県も大きいので、その中の南薩摩です。具体的には枕崎市から提供を受けて調べています。
そうすると、不思議な結果が出てきたわけです。地理的には島根県が含まれる山陰地方は、朝鮮半島に近いので、こうしたDNAの結果が出るまで、私は地理的に見て、出雲の人は関東の人よりも韓国の人に少し近いのではないかと思っていました。ところがそうではなかったわけです。これは驚きでした。
●日本各地域の遺伝的傾向に関する理化学研究所の調査結果
その前の2008年に、図のように、日本のいろいろな地域の研究を、世界的にも先駆けて理化学研究所が行っています。ただ、残念なことに北海道、東北、関東、信越、中部、近畿、九州、沖縄とあるのですが、灰色で示しました中国・四国地方はなぜか何もデータがありません。そういう意味でもわれわれは、出雲人が中国地方、山陰地方なので調べたわけです。
そうはいっても、上の図のように化学研究所が日本人7000人を調べたSNPの結果から、赤で示しましたわれわれがいうヤマトクラスタ(理化学研究所では本土クラスタといっています)と、彼らがいう琉球、沖縄の人たちは明瞭に分かれます。これは当然、先ほど私たちが示したものと同じです。
それぞれの地域でいいますと、沖縄人は当然ながら図の琉球クラスタにたくさんいるわけです。赤で示したのが、沖縄で調べられた人々という意味です。九州の人たちというのは、ここにきますけれども、一部は沖縄の人々とDNA的に似ています。これは、今は、そのときは九州に住んでいるけれども、もともとは沖縄出身で九州にいる人がいても全然おかしくないですから。
それから近畿が面白いですね。近畿地方は黄色ですけれども、この赤の全体の中では、どちらかというと左にシフトしています。左ということは、北京の中国人です。左の方がより大陸に近い。そして近畿の人は明らかに大陸の方にシフトしています。これは、実は戦前からいわれており、近畿地方は渡来人、帰化人が一番たくさん来たのです。従って大陸と近いということが、DNAからもこれで分かったわけです。
上の図では、北海道、関東甲信越、東海・北陸はそのようなシフトがありません。だいたい典型的なヤマト人です。問題は東北人です。東北人だけはなぜか右の方に逆に、大陸とは違う方向にシフトしています。これはいったい何だろうと。少し、しかも下に移動していますので、これが沖縄ですから、沖縄と共通性があるようにも見えるという、不思議な結果を理化学研究所のグループが出しています。
●東北は北海道よりも沖縄と類似性を持つ
われわれは、アイヌの人たちと沖縄の人たちのDNAを調べました。理化学研究所は、それをこの後7000人からさらに10万人に増やした結果を使うことができましたので、それがこの灰色で膨大な点々があります。上がヤマトクラスタ、その下が沖縄の人々ですが、赤と緑は、いわゆる関東地方の人と沖縄の人です。これは理化学研究所の結果と対応しています。問題はアイヌの人々です。このように(上下に細長く)なっていまして、これはある意味で驚きだったわけです。
といいますのも、先ほどいいました東北地方の人たちが少しシフトしているからです。これは、私は最初、あるいはこの論文を出した人たちも、アイヌの人たちの遺伝的な影響が東北の人たちにあったからではないかと考えました。そうすると、アイヌの人たちは、少し引っ張られていますので、この辺り(図の右端の方)になるべきです。
ところがわれわれの結果では、図のようにアイヌの人は真下にきています。ということで、どうも東北の人のシフトというのは、アイヌの人たち、つまり縄文的な人々の要素とはまた違うものがあるのではない...