●「間接的に」別の感情を抱くことで恐怖を静める
ということで、今度は前回と同じ『情念論』の第45項です。〔先ほどは第136項を見たので〕数字が少し若くなります。45番目の項目を主に見ていきたいと思います。彼はこう述べています。
「私たちの情念は、意志の作用によって直接に引き起こしたり取り除いたりすることはできない。」
どういうことかというと、恐怖という気持ちと直接に格闘しても、この気持ちは消えないということです。恐怖に対して「消えよ、消えよ」と力んでも消えません。それと同時に、「怖くなろう、怖くなろう」と思っても、なかなか怖くはならないのです。つまり、感情というものは力んでも消えないし、また生まれたりもしません。45番目の項目ではそんなことが述べられているのです。
では、どうすれば「ああいう気分になりたいな」と思っているときの、その気分が起きてくるか。同じ項目ではこう述べています。
「もちたいと思う情念と習慣的に結び付いているものを表象したり、退けようと望む情念と相容れないものを表象することで、間接的に引き起こしたり取り除いたりすることができる。」
ポイントは「間接的に」ということです。つまり恐怖を抑えようとしたら、直接的にどうこうしようとしても、恐れの感情は静まりません。やはり無理な話です。その代わり、恐怖を引き起こした原因とは直接に関係のないもの、できることなら正反対のものを思い描くこと、想像すること。より正確には、想像しようと意志することによって、実はこの恐怖という気持ちが抑えられると言います。
●恐怖とは別のことに考えが及ぶと恐怖の感情は静まってくる
これだけだと少し分かりにくいので、デカルトの説明を聞きます。ちなみに、45番の項目でデカルトは恐怖をどうやって取り除くかということを説明しているので、読めばすぐ皆さんにご理解していただけるということで、愛から恐怖に具体例を変えたのです。
「たとえば、自分のうちに大胆さを引き起こし、恐怖を取り除くには、そうしようとする意志をもつだけでは不十分である。危険は大きくないとか、逃走するよりも防御するほうがつねに安全であるとか、勝てば誇りと喜びを得るだろうが逃げれば心残りと恥しか残らないとか、そう確信させてくれる理由、対象、実例を、しっかり...