デカルトの感情論に学ぶ
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
恐怖をなくす方法と感情のコントロール…デカルトの考え方
デカルトの感情論に学ぶ(2)感情をコントロールするには
哲学と生き方
津崎良典(筑波大学人文社会系 教授)
恐怖は消そうと思っても、消えるものではない。デカルトの感情論の特徴は、恐怖を別の感情でコントロールするというものである。そのためには何が重要となるのか。デカルトの『情念論』から読み解く。(全2話中第2話)
時間:13分05秒
収録日:2018年9月27日
追加日:2019年4月4日
カテゴリー:
≪全文≫

●「間接的に」別の感情を抱くことで恐怖を静める


 ということで、今度は前回と同じ『情念論』の第45項です。〔先ほどは第136項を見たので〕数字が少し若くなります。45番目の項目を主に見ていきたいと思います。彼はこう述べています。

 「私たちの情念は、意志の作用によって直接に引き起こしたり取り除いたりすることはできない。」

 どういうことかというと、恐怖という気持ちと直接に格闘しても、この気持ちは消えないということです。恐怖に対して「消えよ、消えよ」と力んでも消えません。それと同時に、「怖くなろう、怖くなろう」と思っても、なかなか怖くはならないのです。つまり、感情というものは力んでも消えないし、また生まれたりもしません。45番目の項目ではそんなことが述べられているのです。

 では、どうすれば「ああいう気分になりたいな」と思っているときの、その気分が起きてくるか。同じ項目ではこう述べています。

 「もちたいと思う情念と習慣的に結び付いているものを表象したり、退けようと望む情念と相容れないものを表象することで、間接的に引き起こしたり取り除いたりすることができる。」

 ポイントは「間接的に」ということです。つまり恐怖を抑えようとしたら、直接的にどうこうしようとしても、恐れの感情は静まりません。やはり無理な話です。その代わり、恐怖を引き起こした原因とは直接に関係のないもの、できることなら正反対のものを思い描くこと、想像すること。より正確には、想像しようと意志することによって、実はこの恐怖という気持ちが抑えられると言います。


●恐怖とは別のことに考えが及ぶと恐怖の感情は静まってくる


 これだけだと少し分かりにくいので、デカルトの説明を聞きます。ちなみに、45番の項目でデカルトは恐怖をどうやって取り除くかということを説明しているので、読めばすぐ皆さんにご理解していただけるということで、愛から恐怖に具体例を変えたのです。

 「たとえば、自分のうちに大胆さを引き起こし、恐怖を取り除くには、そうしようとする意志をもつだけでは不十分である。危険は大きくないとか、逃走するよりも防御するほうがつねに安全であるとか、勝てば誇りと喜びを得るだろうが逃げれば心残りと恥しか残らないとか、そう確信させてくれる理由、対象、実例を、しっかり...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
現代人に必要な「教養」とは?(1)そもそも教養とは何か
教養とは…本質を捉える知、他者を感じる力、先頭に立つ勇気
小宮山宏
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人

人気の講義ランキングTOP10
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(2)政府債務と預金残高の背景
なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか
養田功一郎
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
戦前日本の「未完のファシズム」と現代(8)満州事変と世界大恐慌
「100年戦争」と考えて戦争に突入した日本の現実
片山杜秀
弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(1)弥生時代はいつ始まったのか
なぜ弥生時代の始まりが600年も改まった?定説改訂の背景
藤尾慎一郎
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子