デカルトの感情論に学ぶ
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
津崎良典(筑波大学人文社会系 教授)
初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる。(全2話中第1話)
時間:10分27秒
収録日:2018年9月27日
追加日:2019年3月31日
カテゴリー:
≪全文≫

●友人シャニュからデカルトへの「秘密の衝動」をめぐる問いかけ


 17世紀フランスの哲学者デカルトにはいろいろな職業の友人がいました。科学者であったり、同業の哲学者であったり、僧侶であったり、その中には政治家、外交官もいました。外交官の友人の一人、シャニュは1647年5月11日に友人のデカルトにこんな質問を手紙で寄せています。

 「あの人ではなくこの人に友愛の念を感じるとします。しかも、その人の長所をまだ知らないのに友愛の念を感じるとしたら、そのように私たちを仕向ける秘密の衝動があるはずですが、それが一体なんなのか、私には判然としません。」

 この人には、こんなポジティブな長所がある、こんないいところがあるから、私はその人が好きだ、これはよく分かる話です。ただ、まだよく分からない段階でも、なんとなくその人がいいなと思うことは結構あると思います。

 視聴者の皆さんにも、思い当たることはあると思うのですが、デカルトの友人のシャニュも当然のごとくそのことを疑問に思ったらしいのです。デカルトは何とか頑張って答えようとしているのですが、今回はその答え方を見ていきたいと思います。

 シャニュが問題にしている秘密の衝動について、なぜか分からないけれども、或る人に惹かれるとき、デカルトに言わせると、そこには身体レベルでのメカニズムが働いていると言います。例えば、私が或る人のことを「いいな」と思ったとき、この私の身体に或る変化が生じているということです。

 どういうことか。或る人に初めて出会ったとします。強く印象づけられるとします。そうすると、私の脳の中にその印象がいつまでも残っていって、その後も似たような人に会うと、積極的にその人に対して好意を抱くようになる。デカルトは、このシャニュの問いかけであった秘密の衝動についてこのように答えています。

 自分が実際そうだったとデカルトは言います。彼は子どもの頃、同じくらいの年齢で少し斜視の女の子が好きだったそうです。斜視というのは、片方の目がちょっと外に向いていたり、内側に向いていたり、傾いているという身体的な特徴をもった人のことを言いますが、彼は若い頃、そういうタイプの人物に強く印象づけられて、その後もそのように斜視、ないし斜視気味の女性のことが好きだったというのです。

 皆さ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
小林秀雄と吉本隆明―「断絶」を乗り越える(1)「断絶」を乗り越えるという主題
小林秀雄と吉本隆明の営為とプラグマティズムの格率
浜崎洋介
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
もののあはれと日本の道徳・倫理(1)もののあはれへの共感と倫理
本居宣長が考えた「もののあはれ」と倫理の基礎
板東洋介
楽観は強い意志であり、悲観は人間の本性である
これからの時代をつくるのは、間違いなく「楽観主義」な人
小宮山宏
老荘思想に学ぶ(1)力のメカニズム
老荘思想は今の時代に人類の指針となる
田口佳史
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
日本の財政と金融問題の現状(1)財政赤字の何が問題か
日本の財政は本当に悪いのか?将来世代と金利の問題に迫る
木下康司
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
戦史に見る意思決定プロセス~日本海軍の決断(1)日本海海戦・東郷平八郎
なぜ東郷平八郎はバルチック艦隊を対馬で迎え撃ったのか?
山下万喜