●ローマの「父祖の遺風」と江戸の「武士道」
── 皆さま、こんにちは。本日は東京大学名誉教授の本村凌二先生と、直木賞作家の中村彰彦先生をお招きして、「ローマ史と江戸時代史で読み解く組織・国家の盛衰」というテーマでお話をいただこうと思います。
いかなる国家や組織にも、発展期、中興期、爛熟期、衰退期というライフサイクルがあると思います。そのような区分を逆から考えると、優秀な創業者がいたり、優秀な中興の祖がいたり、優秀な組織運営者がいたりしたから、ということになろうかと思います。発展ー中興ー爛熟のプロセスを見ていくにあたり、ローマ史と江戸時代史は非常に参考になるのではないでしょうか。両者の比較から、その秘密に迫っていきたいと思います。
まず、組織の勃興について。ローマ帝国も江戸幕府も非常に長期的な政権を維持しました。本村先生にはテンミニッツTVの講義で、ローマがなぜあのようなかたちで興ったかについて、いろいろなお話をいただいています。例えば、ローマ人の質実剛健さ、宗教的な敬虔さ、「祖国」の発見と国防意識の強さ、さらに誠実さもあれば、物事をどんどん洗練させていく能力や実利精神も挙げておられました。なかでも強調されていたものが、「父祖の遺風」です。「父祖」とは父親と祖先を指すことばですが、それの遺風を重んじるということです。
日本の場合にも、この部分は非常に共通性があるように思いますが、中村先生、いかがでしょうか。
中村 本村先生のご指摘は、高校レベルの世界史、あるいはローマに関する授業ではわれわれが教わらなかったことです。そういう精神を支えるものは非常に重要だと私は考えています。日本人の場合も、「東照宮遺訓」や「大西郷遺訓」で明らかなように、遺訓を非常に好む民族です。
また、例えば8月1日は、徳川家康の時代から幕末に及ぶ江戸時代、非常に重要な祝典の日とされました。何の日かというと、家康が江戸を戴き、江戸城に初めて入ったのが8月1日です。そのため、「八朔の祝い」は大変めでたい日とされ、あらゆる大名、旗本、御家人たちが総登城することによって、それを祝いました。また、歴史的にその日を自分たちのスターティングポイントとして確認していく意味合いが年中行事として取り込まれました。
「八朔の祝い」を重んじたあたりが、本村先生のおっしゃるローマにおける「父祖の遺風...