人類学と「人種差別」
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世の中に知られていない日本人類学の負の遺産
人類学と「人種差別」(3)人類学者の使命
長谷川眞理子(総合研究大学院大学名誉教授/日本芸術文化振興会理事長)
人類学の研究という名目で、略奪、収奪を被ってきた先住民の扱いに関して、法律が整い、論争に解決がつくようになったのはごく最近、2010年以降のことだ。しかし、人類学者が先住民と対立していては問題の解決にはならないと、長谷川眞理子氏は言う。ではどう対処していけばいいのか。これからの人類学者の使命について提言する。(全3話中第3話)
時間:11分44秒
収録日:2019年3月4日
追加日:2019年7月9日
≪全文≫

●アメリカの先住民論争


 アメリカでも、そういう意味ではずいぶんと先住民との戦いがあったわけですが、1990年に、「アメリカ先住民の墓の保護と遺物の返還にかかる法律」(お墓を保護して遺物を彼らの元に戻すという法律)が制定されました。私有地の場合は駄目なのですが、国有地で発見されて国の補助を受けている機関が持っている先住民の骨や洋服、住居にあったもの(しゃもじといった道具など)は先住民に返さないといけないということになりました。それまで略奪や収奪が行われても、ずっと何もしなかったのですが、1990年にこの法律ができたのです。

 1996年に、ワシントン州の北の方のコロンビア川の河原で骨が発見されました。ケネウィックという村の地方の名前なので、「ケネウィック人」と名付けられました。そして、年代測定の結果、それは9000年前の人だと分かったのです。「アメリカ先住民はそもそもどこから来たのでしょう」とか「先住民の祖先はどの集団から来たのでしょう」というのは結構な論争があるので、9000年前の人骨は非常に貴重な標本なのです。でも、1990年にできた法律があるため、アメリカ先住民の団体が骨の返還要求をしました。


●長い時をへて「先住民への返還」がようやく実現


 そこでまた激しい論争になったのです。ケネウィック人のその骨は、ちょっと見ではアメリカの先住民に似ていないから違う。今の先住民の祖先ではないのではないか。研究するためにちょっと取っておかなければいけない、など。いろいろなことがあって、先住民の団体は非常に怒って、ものすごく激しいやりとりがありました。それでは、DNAを取れば本当に誰の祖先か結構分かるでしょうという話が出たのですが、1996年ごろは、DNAによる分析もあまり精度が高くなかったのです。

 2013年ごろにようやく、非常に精度のいい古代DNAの分析ができるようになったのですが、その場合、ケネウィック人の誰の祖先かということをまた骨を壊してDNAを取らないといけないため、骨を壊すのかということで一悶着ありました。いろいろ協議をした結果、ほんのちょっと骨を壊して、ほんのちょっとDNAを取るということで了解が取れ、2013年に分析をして、2015年に結果が出たのです。

 そうしたら、それは本当にケネウィック周辺の先住民の遺...

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