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『貞観政要』は古典活用のバイブルである

人生に活かす東洋思想(7)太宗と『貞観政要』

情報・テキスト
太宗(唐)
『貞観政要』は古典活用のバイブルと呼ばれる。唐の太宗が武断政治から文治政治を行い、周囲の諫言(かんげん)を取り入れた様子が詳しく書かれているからだ。なぜ太宗は文治政治ができたのか。そして、殺されない諫言の方法とは。(全8話中第7話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:12:16
収録日:2019/06/14
追加日:2019/09/06
カテゴリー:
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≪全文≫

●「これからは学問の時代」と気づき、学者を隣に置きつづけた太宗


田口 前提として「古典とは、身近な問題を解決する一番いい方法だ」ということをまず置いて、これをどうやって活用して、自分の人生にうまく活かすかという観点で読まれたほうがいいです。漢籍であれ何であれそうですが、その証拠をよく表しているのが『貞観政要』です。

―― なるほど、はい。前半でも『貞観政要』はだいぶ出てきました。

田口 私は『貞観政要』をずいぶん若いときに読んで、当時はまったくピンとこなかった。しかし、30代ではうまくいかない苦労、40代にではうまくいきすぎた苦労をくぐり抜け、50歳ぐらいになって転換を図ろうとしたときにたまたま机の上にあったのが『貞観政要』でした。もう一度読んでみると、全然違う。「すごいな、これは」と思いました。

 どこがすごいかというと、これには唐の太宗のことが書いてある。唐は618年にスタートした国家ですから、それまでの時代に儒教が生まれ、四書五経が編まれています。唐はそれらを活用して、300年もの間国家を長続きさせました。現代流に言うと、古典をうまく活用した国家です。

―― そうか。古典をうまく活用できるような土壌ができていた時代ということですね。

田口 ですから、この書物は古典活用のバイブルみたいなものなのです。

 とりわけ見事なのは、古典を読んだ太宗が「失敗の原因は一つしかない」と思い当たったことです。それは何かと言うと、「気の緩み」や「心の驕り」と呼ばれるようなものです。したがって、そこさえ抑えれば、自分も成功者として長らえることができるのではないか、と彼は思います。ただ、太宗は12、13歳から将軍として馬上にあり、ほとんど古典など読む暇のなかった人です。

―― ひたすら戦っていた、戦場の人ですよね。

田口 戦っていました。ところが、彼の卓越したところは、自分が政権についた途端、「もう武断政治の時代ではない。文治政治だ」と定めたところです。文治政治、すなわちトップが教養を持って指示を出さないといけない時代がきたというのです。「これからは学問の時代だ」といって、24時間自分の隣に学者を置き、それこそ「同行」させました。

―― すごいですね、先生。24時間、常に「同行」するのですね。

田口 そうです。寝ている間も次の間に控えています。太宗が夢うつつで「このことは、どういうふうに書いてあるのか」と言うと、パッと飛び起きて、「それはかくかくしかじかの本に、こう記されています」と答える。家庭教師どころの騒ぎではなく、一緒に暮らしながら疑問に答えていく。すると太宗は「すぐにそれを読んでくれ」と言うわけです。だから、どこに何が記述されているかがパッと出てこなきゃいけない。


●「人生の良いとき、悪いときを乗り越える」のが教養の力


田口 そうこうするうちに、彼自身が徹底的に、本当の意味で教養人になる。教養とは何かというと、今思われているように「知識があること」ではありません。「人生の良いとき、悪いときを乗り越える」のが教養です。

―― なるほど。良いときと悪いときを乗り越えるのが教養ですか。

田口 良い悪いが眼中になくなるのが、教養なのです。

―― なるほど。今とは全然意味が違いますね。

田口 富貴に恵まれた良いときに、みなが良いと言ってくれるのはありがたいけど、「今はちょっと物質に恵まれているだけで、自分にはそれはどうでもいいことだ」と思う。貧賤のときは「今はちょっと物質に恵まれないだけで、大したことではないのだ」。そういうふうに富貴貧賤を乗り越えられるかどうかが、教養があるかどうかです。

―― なるほど。先生、その定義はとても分かりやすいです。富貴貧賤を乗り越えるか乗り越えられないか。

田口 乗り越えられないなら大した教養人ではない。だから、教養とはそれを乗り越えるものなのです。トップをやっていると、シーソーゲームみたいなもので、わっとうまく伸びたかと思うと、どんと駄目な時もくる。これはもう気候の変動のようなものです。当時は税収が著しく変わってしまうこともあれば、強敵などもご承知の通り、匈奴(きょうど)などがたくさんいたわけです。

―― いくらでも敵はいるわけですよね。

田口 いくらでもいるし、その気になって攻めてこられれば、すぐどん底にいく。そんなことをいちいち気にしないためには教養を身に付けないと駄目だと考えて、うんと教養を身に付けたのです。


●驕りに陥らぬよう、「諫言」する役職をつくった強烈さ


田口 その末に分かったのが、「驕り(おごり)」や「昂り(たかぶり)」があると消滅していくということです。それで、ここをなんとかしなければいけないというので、彼はどうしたか。

 「社長室の...
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