●「感動人間」になって古典を読み、語る
田口 古典というと難しい、読みにくいというものだという思い込みを覆していくのが、微力ながら私の仕事かと思ってやってきました。「やさしく説く」のが私の基本です。なにしろ(私がまだ駆け出しで、なかなか仕事にありつけなかった)苦難の時代に、私はアルバイトで取説(とりせつ=取扱説明書)を書いていましたから。
取説は、小学校2年生以下でも、80歳以上の老人でも分かるのが基本です。当時は、原稿を持っていくたびに、「こんな難しいのでは通用しない」と言われ、みんなボツでした。だから、やさしく読むことは、そこで訓練されました。
―― 先生は取説で鍛えられているわけですね。素晴らしいですね。先生のようなかたちの人が出てこない限り、『貞観政要』も『書経』も復活しないと思います。
田口 どの本にも私自身が惚れ込んで、すごいな、すごいな、と読んでいった。例の「感動人間」になり、1ページごとに感動しながら読んでいきました。
―― 先生が感動しながら読んでいるから、相手を感化できるわけですよね。
田口 とにかく面白い。ここが面白いでしょう、といって講義しています。今日も午前中は講義をしてきたし、最近は毎日どこかで行うのですが、それで一番勉強しているのが私です。講師が一番勉強になります。
―― 自分で教えるからですか。
田口 「ここがまだ足りない」と思うこともあるし、帰ったら復習をします。学校の勉強ではないから、復習すると世間が非常によく分かる。あの人はここで怒ったのだとか、あの話は彼には面白くないのだとか、世間が分かる。
―― 世間が分かるのは、学校の勉強との大きな違いですね。
田口 そうです。「世間通」にさせていただいているというところかもしれません。
●人生の糧として、妙味として、哲学を使い切る手法
―― 今回、冒頭で「20歳までに基本をしっかりつくっておかないと」と言われました。今の世の中では、それをつくらずにいろいろやるから、さまよってしまうような人が多いのですね。
田口 ええ。古典ということから言えば、日本には「儒教、仏教、道教、老荘思想、禅、神道」と、これだけの思想・哲学が蓄積している。蓄積しているということは、「たまっている」ということですよ。日本は「たまり文化」なのです。たまり文化というと、味噌、醤油、砂糖。これを味...