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「石門心学」に「儒・仏・道・禅・神道」を使い切るヒントがある

人生に活かす東洋思想(8)東洋古典と石門心学

情報・テキスト
8回の連続講義を経て、東洋古典は難解で遠い存在から、現実に使えて役立ちそうなものに変わってきただろうか。そのような先達に石田梅岩の「石門心学」がある。哲学・思想を使い切って、「生きているだけで100点」の人生を送りたい。(全8話中第8話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:08:18
収録日:2019/06/14
追加日:2019/09/06
カテゴリー:
≪全文≫

●「感動人間」になって古典を読み、語る


田口 古典というと難しい、読みにくいというものだという思い込みを覆していくのが、微力ながら私の仕事かと思ってやってきました。「やさしく説く」のが私の基本です。なにしろ(私がまだ駆け出しで、なかなか仕事にありつけなかった)苦難の時代に、私はアルバイトで取説(とりせつ=取扱説明書)を書いていましたから。

 取説は、小学校2年生以下でも、80歳以上の老人でも分かるのが基本です。当時は、原稿を持っていくたびに、「こんな難しいのでは通用しない」と言われ、みんなボツでした。だから、やさしく読むことは、そこで訓練されました。

―― 先生は取説で鍛えられているわけですね。素晴らしいですね。先生のようなかたちの人が出てこない限り、『貞観政要』も『書経』も復活しないと思います。

田口 どの本にも私自身が惚れ込んで、すごいな、すごいな、と読んでいった。例の「感動人間」になり、1ページごとに感動しながら読んでいきました。

―― 先生が感動しながら読んでいるから、相手を感化できるわけですよね。

田口 とにかく面白い。ここが面白いでしょう、といって講義しています。今日も午前中は講義をしてきたし、最近は毎日どこかで行うのですが、それで一番勉強しているのが私です。講師が一番勉強になります。

―― 自分で教えるからですか。

田口 「ここがまだ足りない」と思うこともあるし、帰ったら復習をします。学校の勉強ではないから、復習すると世間が非常によく分かる。あの人はここで怒ったのだとか、あの話は彼には面白くないのだとか、世間が分かる。

―― 世間が分かるのは、学校の勉強との大きな違いですね。

田口 そうです。「世間通」にさせていただいているというところかもしれません。


●人生の糧として、妙味として、哲学を使い切る手法


―― 今回、冒頭で「20歳までに基本をしっかりつくっておかないと」と言われました。今の世の中では、それをつくらずにいろいろやるから、さまよってしまうような人が多いのですね。

田口 ええ。古典ということから言えば、日本には「儒教仏教、道教、老荘思想、禅、神道」と、これだけの思想・哲学が蓄積している。蓄積しているということは、「たまっている」ということですよ。日本は「たまり文化」なのです。たまり文化というと、味噌、醤油、砂糖。これを味噌、醤油から見ていただくと、発酵文化になります。そうすると、たまり文化は発酵文化になって、世にも稀なる香りと風味を醸します。

「儒・仏・道・禅・神道」という世にも珍しい風味に現在なっている、そういうものを放っておきながら、「令和」の年号をきっかけに日本というものをもっと見なければいけない、日本をもっと理解しなければいけないと言っても意味がない。日本の文化は儒・仏・道・禅・神道から来ているわけですから、もう一度、儒・仏・道・禅・神道にしっかり立ち返らなければいけない。そのための手本が江戸に一つだけあります。これが「石門心学」です。

 石門心学の石田梅岩のすごさは、「思想・哲学をいいように使い切った」というところにあります。梅岩を読むと、「こういうふうに使ったのだ」と感心します。仏教、神道、儒教をうまく使ってあるのです。そのように、思想・哲学は使ってしまわないといけないものです。

―― そうか。思想・哲学は使ってしまわないといけない。

田口 江戸時代の通例で、「上り坂の儒家、下り坂の老荘」、あるいは「昼間の儒家、夜の老荘」と言います。儒教老荘思想は、中国古典二大思想です。これを、江戸時代の人は面白おかしく使い切ったわけです。

 「人生が上り坂だったら、儒教でいこう。ちょっと下り坂になってきたなと思ったら、老荘思想でいこう」と言ったわけですね。あるいは、昼間は裃付けて儒教で行いを正しつつ、夜は酒でも飲んで老荘思想で楽しむ。

―― その哲学は、すごいですね。

田口 人生の糧として、妙味として、哲学は使い切るものなのです。そういう観点で読んでいただくと、とてもいいのではないですか。


●「生きているだけで100点」を実現する学問の力


―― 今日のお話では、日本人の生き様、暮らし方、働き方の原点が道元にあると言われました。それは、ちょうど五つの思想がたまってきて、そこからスタートしたということなのですね。

田口 鎌倉は今と同じ技術革新の時代でした。室町という人も多いが、淵源は鎌倉です。当時も金融社会で、今も使う「為替」という言葉が象徴です。鎌倉・室町の言葉では「カワシ」と言いました。

 そのように現代と瓜二つだった時代に、みんなの心を非常に救ったのが、道元禅師です。今は難しく考えすぎているきらいがあり、道元さんも「そんなものでは...
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