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茶の哲学のベースにある老荘思想

岡倉天心『茶の本』と日本文化(3)茶の歴史と老荘思想

大久保喬樹
東京女子大学名誉教授
概要・テキスト
東京女子大学名誉教授の大久保喬樹氏が明治の美術運動家・岡倉天心と著書『茶の本』について解説。第3話では『茶の本』の第2章と第3章を取り上げる。茶の文化は禅僧により中国から日本に渡り、室町期に大きく発展した。天心は茶の哲学には禅に通じる老荘思想があるとし、日常生活の小さな一杯の茶に宇宙の摂理があると述べている。(全6話中第3話)
時間:11:34
収録日:2018/05/22
追加日:2018/07/01
カテゴリー:
≪全文≫

●茶の歴史~薬用から文化的なものへ


 今回は『茶の本』の第2章の「茶の歴史」、それから第3章の「茶の哲学」についてお話をしたいと思います。

 茶は古代中国で、最初は薬として用いられていました。それがだんだんと文化が進むにつれて、茶というものがいわば精神衛生面で効果があるということから、文化的なものに変わっていったわけです。これがいわゆる茶道の出発点といっていいかと思います。特に8世紀に陸羽という人が書いた『茶経』という非常に有名な本があります。少しだけ読んでみると、このように書いてあります。

 「一杯目は唇と喉をうるおし、二杯目は孤独感を忘れさせてくれる。三杯目を口にすると、枯渇していた詩心をかきたてられるが、五千巻ほどのおかしな軸が並ぶことになるばかり。四杯目でうっすらと汗をかき、日ごろの煩わしい思いが毛穴から抜け出ていく。五杯目には心身が浄化され、六杯目となるとついには不老不死の境地に至る」

 このように、日常の場にありながら日常世界を抜け出して、仙人の境地になる。これは後でお話しする老荘思想などと非常に関係して、こうした茶の精神的な意味というものが、強調されるようになります。


●禅宗の考え方を出発点に発展した日本の茶道


 しかしながら、こうして発展してきた中国における茶の文化が、やがて15世紀近くになると、社会の乱れ、世間が混沌としてきたことによって衰退していってしまいます。その代わりにそれを受け継ぐような形で、日本に茶の文化を取り入れて大成させたのが、禅宗のお坊さんたちです。

 禅は仏教の一派ですが、室町時代に中国で勉強したお坊さんたちが日本に帰ってきました。それ以前の仏教に比べて禅宗の特徴は、単に仏道、仏教の修行というものはお経を勉強するだけではなく、日常生活そのものである、とするところにありました。寝て起きてご飯を食べて掃除をして、そういう日常生活そのものが修行なのだ。その中の一部としてお茶を飲むということが、日常生活の一番のポイントになる。それを仏に近づく修行の一つとして捉えるようになる。そういうことから、日本の茶道が出発しました。

 それを代表していたのが、千利休です。利休はご存じのように太閤・豊臣秀吉に仕えながら、茶室の中においては一歩も譲らないという気構えで、そして後ほどご紹介しますが、さまざまな茶の文化を確立しました。こう...
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