岡倉天心『茶の本』と日本文化
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東洋では西洋と違い、自然の力を重視する
岡倉天心『茶の本』と日本文化(5)自然にゆだねる
大久保喬樹(東京女子大学名誉教授/日本文学者)
『茶の本』第五章は「芸術鑑賞」、第六章は「花」である。ここに共通するテーマは「相手」。芸術や華道において、相手に自分を預けて委ねる大切さとは、どういうことなのだろう。東京女子大学名誉教授の大久保喬樹氏にご案内いただく。(全6話中第5話)
時間:10分45秒
収録日:2018年5月22日
追加日:2018年7月1日
カテゴリー:
≪全文≫

●琴に「自分の物語を語らせた」名人の話


 今回は、『茶の本』の第五章「芸術鑑賞」と第六章「花」という二つの章についてお話ししたいと思います。二つの章で天心が強調するのは「相手」。相手が人間である場合にせよ、自然である場合にせよ、相手に自分を預けて委ねることが非常に大切なのだと述べています。

 最初に第五章の方で、芸術にどう対するべきか。とくに東洋の芸術と、その創作者の関係について、たとえ話で話しているものを紹介しましょう。

 天心は中国の物語から、「琴ならし」を挙げています。大昔、ある森の中に非常に古い桐の大木があった。それを切り出し、琴の名器がつくり出されて、皇帝の元に運ばれた。皇帝は、それを見て「この琴を弾きこなすことのできる名人はいないか」と、国中にお触れをまいた。我こそはという琴の名人たちが集まってきて挑戦したが、うんともすんとも言わず、どうにも手がつけられない。そこへ、ある時伯牙(はくが)という一人の琴の名手がやってきた。彼が琴に触れるや否や、琴は朗々とうたい出し、伯牙が手を添える必要もなさそうなぐらいだった。

 見事な演奏にすっかり感心した皇帝が、弾き手に秘訣を尋ねると、「自分はただ琴の物語を琴に語ってくれるように促しただけです。今までの名人たちは、自分たちの物語を語らせようとしたけれど、それには頑として抵抗した琴が、自身の物語を進んで語ってくれたのです」と言った。

 天心はこの挿話を引いて、「これが東洋における芸術であり、運動(スポーツ)であり、全ての極意だ。西洋のように、人間が全てを取り仕切って、琴を弾きこなさなければならないとするのとは、正反対のやり方である」と言っています。


●「余白の美」は東洋の芸術の特徴


 この挿話から天心は、東洋のあらゆる芸術に通じることだと言います。例えば、絵画では、東洋絵画に特徴的なポイントの一つに「余白」があります。墨絵などで、画面の一部分にはあえて墨を入れず、元のままに残しておく技法で、おのずと観る者の感情が同化・流入することを促す。「余白の美」では、語らないことによって、あえて推し量らせる。そういうものが東洋の芸術の特徴なのだというわけです。

 また、芸術ばかりではなく運動(スポーツ)の世界などでも同じことがいえる。例えば、柔道がそれである。柔道においては、力任せに相手をネジ倒そうとする...

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