岡倉天心『茶の本』と日本文化
この講義シリーズは第2話まで
登録不要で無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
6,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
東洋では西洋と違い、自然の力を重視する
岡倉天心『茶の本』と日本文化(5)自然にゆだねる
大久保喬樹(東京女子大学名誉教授/日本文学者)
『茶の本』第五章は「芸術鑑賞」、第六章は「花」である。ここに共通するテーマは「相手」。芸術や華道において、相手に自分を預けて委ねる大切さとは、どういうことなのだろう。東京女子大学名誉教授の大久保喬樹氏にご案内いただく。(全6話中第5話)
時間:10分45秒
収録日:2018年5月22日
追加日:2018年7月1日
カテゴリー:
≪全文≫

●琴に「自分の物語を語らせた」名人の話


 今回は、『茶の本』の第五章「芸術鑑賞」と第六章「花」という二つの章についてお話ししたいと思います。二つの章で天心が強調するのは「相手」。相手が人間である場合にせよ、自然である場合にせよ、相手に自分を預けて委ねることが非常に大切なのだと述べています。

 最初に第五章の方で、芸術にどう対するべきか。とくに東洋の芸術と、その創作者の関係について、たとえ話で話しているものを紹介しましょう。

 天心は中国の物語から、「琴ならし」を挙げています。大昔、ある森の中に非常に古い桐の大木があった。それを切り出し、琴の名器がつくり出されて、皇帝の元に運ばれた。皇帝は、それを見て「この琴を弾きこなすことのできる名人はいないか」と、国中にお触れをまいた。我こそはという琴の名人たちが集まってきて挑戦したが、うんともすんとも言わず、どうにも手がつけられない。そこへ、ある時伯牙(はくが)という一人の琴の名手がやってきた。彼が琴に触れるや否や、琴は朗々とうたい出し、伯牙が手を添える必要もなさそうなぐらいだった。

 見事な演奏にすっかり感心した皇帝が、弾き手に秘訣を尋ねると、「自分はただ琴の物語を琴に語ってくれるように促しただけです。今までの名人たちは、自分たちの物語を語らせようとしたけれど、それには頑として抵抗した琴が、自身の物語を進んで語ってくれたのです」と言った。

 天心はこの挿話を引いて、「これが東洋における芸術であり、運動(スポーツ)であり、全ての極意だ。西洋のように、人間が全てを取り仕切って、琴を弾きこなさなければならないとするのとは、正反対のやり方である」と言っています。


●「余白の美」は東洋の芸術の特徴


 この挿話から天心は、東洋のあらゆる芸術に通じることだと言います。例えば、絵画では、東洋絵画に特徴的なポイントの一つに「余白」があります。墨絵などで、画面の一部分にはあえて墨を入れず、元のままに残しておく技法で、おのずと観る者の感情が同化・流入することを促す。「余白の美」では、語らないことによって、あえて推し量らせる。そういうものが東洋の芸術の特徴なのだというわけです。

 また、芸術ばかりではなく運動(スポーツ)の世界などでも同じことがいえる。例えば、柔道がそれである。柔道においては、力任せに相手をネジ倒そうとする...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿(1)政治家・石原慎太郎の源流と核の問題
石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿…対比で見えてくる現代的課題
片山杜秀
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
クラシック音楽で世界史がわかる…宗教音楽からクラシックへ
片山杜秀
司馬遼太郎のビジョン~日本の姿とは?(1)1923年生まれの3人の作家
司馬遼太郎と日本人…まず遠藤周作、池波正太郎との比較で考える
片山杜秀
『古今和歌集』仮名序を読む(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
渡部泰明
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子

人気の講義ランキングTOP10
編集部ラジオ2026(34)『オデュッセイア』の秘密と愉しみ
【10min解説】大ヒット映画『オデュッセイア』がもっと楽しくなる神話講義
テンミニッツ・アカデミー編集部
『オデュッセイア』で読み解く神話の秘密(1)物語の構造を読み解くおもしろさ
『オデュッセイア』の面白さの秘密を神話の構造から読み解く…なぜ波乱万丈の神話が人間の創作の源泉になったか
松村一男
高齢者のフレイル・認知症とその予防対策(2)高齢者総合機能評価とフレイル
“マッチョな老衰”はいない!?若い頃からいかに骨格筋肉量を蓄えるかが健康長寿の鍵
小川純人
「満洲」から考える日本とアジア(1)「満洲」を知る意義とは
「満洲史」はなぜ現代日本でタブー視されるのか?…王道楽土の夢とアヘンなどの裏面から見えてくる現代への教訓
宮脇淳子
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(1)ルーズベルトに与ふる書
奇跡の史実…硫黄島の戦いと「ルーズベルトに与ふる書」
門田隆将
教養としての「人口減少問題と社会保障」(1)急速に人口減少する日本の現実
毎年100万人ずつ減少…急降下する日本の人口問題を考える
森田朗
野獣の経営、家畜の経営(1)経営センスが育つ土壌
ファーストリテイリングで経営者が育つ理由
楠木建
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
核DNAデータで日本人のルーツを探る…アフリカから日本まで来た行程と時期は?
斎藤成也
仏教とキリスト教が照らし出す日本の宗教(6)漢字と理性と想像力
漢字と理性と想像力…いま日本人が考えるべきこととは?
橋爪大三郎
モンゴル帝国の世界史(1)日本の世界史教育の大問題
なぜ日本の「世界史」はいびつなのか…東洋史と西洋史の違い
宮脇淳子