岡倉天心『茶の本』と日本文化
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
『茶の本』の背景にあった激動と争いの時代
第2話へ進む
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
芸術と文化
大久保喬樹(東京女子大学名誉教授)
東京女子大学名誉教授の大久保喬樹氏が明治の美術運動家・岡倉天心の世界観、自然観を『茶の本』を通して解説する。天心は、幼少期より外国文化をたしなむ一方で、日本の伝統文化の重要性を説き、欧米の近代文化一辺倒であった明治社会の風潮と真っ向から対立する形となった。(全6話中第1話)
時間:11分07秒
収録日:2018年5月22日
追加日:2018年7月1日
カテゴリー:
≪全文≫

●幼少期から外国文化になじんでいた岡倉天心


 東京女子大学名誉教授で、比較文学、比較文化を専攻している大久保喬樹です。今日は明治の思想家であり美術運動家の岡倉天心と特に彼の主要著書である『茶の本』についてお話ししたいと思います。

 最初に岡倉天心という人がどういう人物だったのかということを、おおざっぱにご紹介したいと思います。天心は明治維新の直前に、当時に開港地であった横浜に生まれました。父親が貿易商をしていたということもあり、幼少の頃から大変に外国になじみがあったということです。天心は『茶の本』を英語で書きますが、日本ではほとんど最初のバイリンガルといえるくらい英語に堪能でした。単に語学が堪能というだけではなく、常に外国に目を向けている人でした。

 天心の同年代としては、『武士道』を書いた新渡戸稲造、あるいは森鴎外など、明治の文化をつくった代表的な人物がずらりと並ぶわけですが、天心は明治維新を境に横浜から東京に移り、やがて明治10年に日本に初めてできた官立の大学・東京大学の第一期生として森鴎外などと一緒に入ることになります。

 そしてその後、天心はアーネスト・フェノロサというアメリカからやってきたお雇い外国人と大変親しくなり、二人で二人三脚のような形で日本の近代美術行政を開拓するようになります。例えば、国宝制度、また最も重要なものとして現在の東京芸術大学の美術学部の前身である東京美術学校などを次々につくり上げていったのですが、天心はそうしたことを若くして行った美術運動家なのです。


●欧米化一辺倒の風潮に対し、日本の伝統文化の重要性を説く


 同時に天心は非常に早くから海外に目を向けておりました。例えば、中国、あるいはインドに半年、一年と長く滞在をして、植民地化されていくアジアの現状というものを見て、西洋に対してアジア諸国が結束して向かっていかなければならない、といった考え方なども培った人です。

 明治の社会は伝統文化を切り捨てて欧米文化を取り入れるのに夢中になっていたわけですが、天心は「それは非常に狭い考え方だ。やはり、これから近代文化をつくっていく上で、日本の伝統文化をしっかりと捉えなければいけない」という考えを持っており、東京美術学校を発足する時には日本美術の専門にしたのです。そのため、当時の社会の風向きとはずいぶんと逆らった形となり、そ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆

人気の講義ランキングTOP10
編集部ラジオ2025(25)クーデターで考える「政治の要点」
台湾クーデター・シミュレーション…「世直し」への条件
テンミニッツ・アカデミー編集部
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(2)再生可能エネルギーの可能性と経済性
やればできる!再生可能エネルギーのポテンシャル高い日本
小宮山宏
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(2)日本人が知らない世界エンタメ市場
実は「コンテンツ世界収益ベストテン」に日本勢が5つも!
水野道訓
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(2)50歳からの目標
伊能忠敬の生き方に学ぶ「50歳からの目標」とは?
童門冬二
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫