岡倉天心『茶の本』と日本文化
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
岡倉天心の思想は現代でどういう意味を持つか?
岡倉天心『茶の本』と日本文化(6)岡倉天心の現代性
大久保喬樹(東京女子大学名誉教授)
『茶の本』を通過したわれわれは、岡倉天心の思想を現代にどう生かすかを考えねばならない。東京女子大学名誉教授の大久保喬樹氏は、天心が最後に残したオペラ「白狐」をもとに、天心の最晩年の思想とその現代における意味を紹介する。(全6話中第6話)
時間:11分17秒
収録日:2018年5月22日
追加日:2018年7月1日
カテゴリー:
≪全文≫

●天心の最後の仕事はオペラ「白狐」


 前回までの5回で『茶の本』の内容を紹介しました。最終回の今回は、岡倉天心の思想が現代においてどういう意味を持つのかという話をしてみたいと思います。

 後半生の天心は、ずっとボストン美術館を仕事場として働いていました。死の前年、天心は「White Fox(白狐)」と題されたオペラの台本を書きます。

 これは、当時ボストンに初めてつくられるオペラハウスのこけら落としの作品として要請されたものです。ただ結局、作曲家としての仕事が未完で終わったため、完成したものにはなりませんでしたが、「白狐」は天心の残した最後の大きな仕事ということができます。これについて、少し紹介したいと思います。

 「白狐」という作品は、日本の「葛の葉(くずのは)伝説」とも「信太妻(しのだづま)伝説」ともいわれる有名な物語が下敷きとなっており、歌舞伎などでも盛んに取り上げられた題材です。

 信太の森に住む「葛の葉」という名の雌狐が安倍保名(あべのやすな)という侍に命を救われ、恩返しに人間の娘に姿を変えて嫁に来る。そして、子どもが生まれるのですが、この子が「陰陽師」としてブームにもなった安倍晴明といわれる人物になった、ということです。

 そういう伝説をもとにして書かれたオペラ作品です。もちろん英語で書かれているわけですが、先述したように話の内容は武士に命を助けられた雌狐が人間の女性に姿を変えて嫁入りし、生まれた子どもを置いて、元の森に帰っていかなければならないと嘆く悲劇のストーリーです。


●自分を犠牲に人間を育てる「自然」に未来を託す


 このオペラの中で大きく強調されているのは、自然が人間の犠牲になってくれることです。自然はわが身を犠牲にして人間にいろいろなものを与えるけれども、人間は逆に自然の精を追いやってしまうのです。

 初回にお話ししたように、天心は後半生、半年間ボストンで仕事をする以外は日本に戻ってきて、東京を避け、茨城県の五浦という太平洋に面した地に小屋を建て、海を眺めながら釣り三昧の生活をしていました。

 日本における天心は、日本社会の実情に絶望して、自然と共に生きるという生活を実践するとともに、この「白狐」という最後の作品で、それをドラマ化したといえるわけです。

 今回はずっと天心の日本文化論について、どういう意味を持つのかをお話...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠

人気の講義ランキングTOP10
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
認知バイアス~その仕組みと可能性(1)認知バイアス入門
誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム
鈴木宏昭
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(3)カントの公共性論
いま学ぶべきカントの挑戦~なぜ「公開性」が重要なのか
齋藤純一