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「胡蝶」の中の玉鬘…その文章の綴り方の妙は古今独歩

日本語と英語で味わう『源氏物語』(3)親子の物語と自然の描写

概要・テキスト
紫式部
出典:Wikimedia Commons
『源氏物語』は光源氏の色恋物語であると同時に親子の物語でもある。そして、そこには重要なテーマが二つあるという。一つは、光源氏にとっての「正妻」とは何かということ。もう一つは、この物語を彩っている、写実的で情感豊かな自然の描写である。その特色がよく出ている「胡蝶」の一節を実際に朗読しながら、『源氏物語』の筆致を味わう。(2024年2月18日開催「大人の学びフェス」講演〈「源氏物語」の深い魅力〉より、全5話中第3話)
時間:19:14
収録日:2024/02/18
追加日:2024/10/28
キーワード:
≪全文≫

●光源氏にとっての正妻が『源氏物語』の大きなテーマの一つ


林 『源氏物語』というと、光源氏の恋愛遍歴というものが中心になっているものであると、あまり読んだことのない人は思っているでしょう。でも、そういう色恋物語というのと同時に、これは親子の物語でもあるのです。

 この時代は自由恋愛というものはなくて、誰が誰と結婚するかというのは、1つの家の存続、繁栄、没落を占うための重要な要素だから、そういう意味で、恋といっても、われわれが「蝶よ花よ」と喜んでいるようなものではないのです。そういう中で、葵の上は源氏の正妻だったけれど、紫の上はとうとう最後まで正妻にはなれないわけです。

キャンベル 子どもは育てるけれど。

林 はい。子どもを育てるけれど、正妻にはなれない。それでようやく、葵の上は死んでしまったし、そのあとがずっと実質的な正妻ですよね、紫の上は。それでもう源氏も功成り名を遂げて中年にはなったことだし、もう安泰かなと思っているところへ女三宮という人が、また天皇の朱雀院の帝のご命令で降嫁してくる。そうすると、源氏は嫌々、これを正妻にせざるを得ないということになります。

 ところが、これが不義密通をして薫という子どもを産んでしまう。というように、結局の話が、源氏にとっての正妻とはいったい何だったのだということがすごく大きなテーマになっているのです。


●『源氏物語』を支える自然の描写


林 実際には、宇治十帖のことはべつに置いておいて、源氏が若い頃からずっといろいろな女君を相手に恋愛をしていく、その様相を眺めてみると、実はそこにいろいろな要素が込められていることが分かります。

 例えば、先ほどいったように、男女関係が生ずると、そこに子どもが生まれるということを前提として、その子どもがどうなるかということです。

 例えば、明石の君が産んだ明石の姫君という、源氏にとっての唯一の女の子を産んだということが、非常に大きな意味を当時は持っていたわけです。つまり、男の子は源氏の息子だったら源氏にしかなれないわけなのです。

キャンベル 階段にならないのですね。

林 ええ。それ以上にはなれないわけです。だけれど、女の子だったら東宮などの帝に入内させることによって、将来は皇后になるわけです。ということは、女の子を持っていれば皇后の父親になれるわけだから、これは非常に...
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