福田恆存とオルテガ、ロレンス~現代と幸福
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「一匹と九十九匹と」…政治と文学の関係を問うた福田恆存
福田恆存とオルテガ、ロレンス~現代と幸福(4)福田恆存とは誰か?
浜崎洋介(文芸批評家/ 京都大学経営管理大学院特定准教授)
福田恆存とはいったい誰なのか。消費社会化した日本の「大衆化」の問題を指摘し、また大きな業績の1つとして『シェイクスピア全集』を全て翻訳した福田恆存の思想に迫る前段として、彼の生涯、その人物像を確認しておきたい。下町で育った福田恆存の身体感覚が、政治では救えない「一匹」を巡る人間論に至るまでを解説する。(全8話中第4話)
時間:17分38秒
収録日:2024年5月10日
追加日:2024年7月7日
≪全文≫

●「孤独をどう乗り越えるか」が福田恆存の思想の原点


 では、続きをやっていきましょう。前回は、大衆化の問題を見た上で、それがいかに人間をダメにするのか、あるいは、自分たちの自然観とかリアリティをなくしていくのか、あるいは、価値観をなくしていくのかということを見ました。それに抵抗していく人間として、福田恆存をご紹介しました。

 では、福田恆存とはいったい誰かという話にもおそらくなると思いますので、まず今回は、「福田恆存とは誰か?」と題して、その人生の主調低音を皆さんと一緒に確認しておきたいと思います。福田恆存に入る前の前段、準備体操という感じです。

 私は福田恆存をイメージするときに、いつも1つの文章を思い出すのです。それが『全集』の「覚書Ⅰ」の中で書かれている、1つのイメージなのです。それを先にご紹介した上で、人生について少し見ておきたいと思います。

 まずは読んでおきましょうか。彼が晩年、全集を編むときに書いた言葉です。振り返りながら。

 〈大学に入ると、本郷界隈に田舎から攻めのぼって来た人種が、下宿に屯して、一つの世界を形造つてゐたが、私の家は神田錦町である、下宿の必要もなければ、反対に私を訪ねてくれる者も殆どゐない。後年さういふ連中の生き方を「下宿文学」と名付けて、密かに私は自分の「孤独」に栄冠を与へた。それは負け惜みでも何でもない。その頃の私は用のないおしゃべりが苦手で、むしろ孤りを好んだ。私は気質的には良くも悪くも職人であり、下町人種であつたのだ。だが、一方では、あたりを取巻く「知識人階級」といふ異人種の包囲網に遭ひ、さうかといつて身方の下町人種は大震災以後、(つまりこれは、関東大震災以後)もはや周囲になく、どつちへ転んでも孤独であつたのだ。〉

 ここなのです。この孤独さは、まさにいま、私たちが持っている孤独さともどこかしら通じるのではないかと思います。

 今言った「下宿文学」とは何かというと、つまり、本郷界隈に田舎から攻めのぼってきた人種ですから、知識人といっていいでしょう。知識人というのは、身体ではなく頭だということにもなりますし、故郷を捨てていくということにもなりますし、同時に、頭であるがゆえに、その頭によって自然を変えようとします。であるがゆえに、個人主義と自由を重んじるといった、そ...

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