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『大衆の反逆』でオルテガが指摘した「大衆化」の問題とは

福田恆存とオルテガ、ロレンス~現代と幸福(3)「大衆化」とは何か

浜崎洋介
文芸批評家/ 京都大学経営管理大学院特定准教授
概要・テキスト
1970年代、高度経済成長を迎えた日本の自然観は、大きく変容していった。社会が消費社会化することで起こる人々の精神的な変化を、日本に先んじて20世紀初頭に経験したヨーロッパにおいて、それを「大衆化」の問題として指摘したのがスペインの哲学者、オルテガだった。歴史を忘却することで起こる「大衆化」がなにをもたらす帰結とはいったい何か。そして1970年にオルテガと同様の指摘をした福田恆存の議論を確認しよう。(全8話中第3話)
時間:12:35
収録日:2024/05/10
追加日:2024/06/30
≪全文≫

●オルテガが指摘した「大衆化」の問題


 ということで、続きになりますが、1970年代に日本が非常にドラスティックに変化をしたという話をしました。それを、前回は「大衆化」の問題と関わらせたわけです。

 では、大衆化とはいったい何なのかという問題があると思うのですが、それを突き詰めることによって、その大衆化の問題、あるいはもっといえば、日本人が失っていた自然の感覚を取り戻していくヒントも見つかるのではないかと思って、次の話題を差し上げようと思います。

 大衆化という問題を、おそらく20世紀において初めて定義、あるいは、定立したのは誰かというと、オルテガ・イ・ガセットだったのではないかと思います。もちろん、群衆の問題とかいろいろな問題があるのですが、いちばん最初に大きく取り上げたのはオルテガだったと言っていいかと思います。

 このオルテガ・イ・ガセットはスペインの哲学者なのですが、1930年に『大衆の反逆』という本を上梓するのです。これはつまり何を言っているかというと、ヨーロッパにおいては、1930年代にもうすでに大衆化の問題が出たという話なのです。それをわれわれは、戦後になって、1970年代において体験していると考えてもいいと思います。つまり、ヨーロッパから考えると40年遅れで、私たちは同じ問題に立ち向かっているのだと考えてもいいと思います。

 実際、19世紀において自由主義と資本主義がバッと広がって、ヨーロッパはそこからものすごく繁栄するわけです。もちろん、当時は植民地も持っていましたから、その繁栄ぶりたるや、日本のバブルも比較にならないのではないかという繁栄です。その中で消費文化を迎え、まさに人が個人個人でバラバラになって自然を失っていく。その結果が、20世紀になって出てくるのです。

 そして、この20世紀に現れた大衆を定義して、オルテガはこう言います。自分を超えたもの、上位の規範――つまり歴史です――この歴史に対する畏怖感を失ったエゴイストたちがわっと出てきたのだ、というのが実は大衆なのだと言うのです。

 先ほども申し上げたと思いますが、自然というのは私たちがコントロールできないものです。あるいは、土地もそうだろうし、歴史もそうです。私たちは自由にコントロールできない。だからこそ、私たちの上位の規範であって、それに従うことに...
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