●悲観主義は人間にとって非常に自然だが、楽観主義は人間の意志である
小宮山 面白い言葉があります。“Pessimism is nature, Optimism is will”という言葉です。
―― それはいい言葉ですね。
小宮山 いい言葉です。東大の先生などにはそういう人も多いのですが、ペシミズム・悲観主義というのは、人間にとって非常に自然なことなのです。しかし、オプティミズム・楽観主義というのは、やはり人間の意志なのです。ですから、僕はそういう意志を持った人たちが、新しい世の中をつくるような気がします。
―― バブルが崩壊した1989年をピークにして、95年くらいまで何となく過ぎて、その後ずっとピークが来ていないではないですか。今の20代、30代の人たちは、いい目に遭ったことがなく、それなりに人生に悩んでいる人が多いと思います。まさに、今の“Pessimism is nature, Optimism is will”で、彼らに向けたメッセージをお願いできればと思います。
●エネルギーがいくらでもある時代が21世紀後半にやって来る
小宮山 僕はずっと前からこう考えていました。今、エネルギーは一番苦しい時代です。温暖化があり、資源の問題があり、おまけに原子力の問題まで抱えてしまいましたからね。今、人類も一番苦しいし、特に日本は苦しいという時代です。しかし、21世紀の後半に入ってきたら、エネルギーなどいくらでもあるという時代が来ると、僕は本当に思っています。
例えば、僕の家は12年前に太陽電池を積みましたが、僕個人としては、もうペイバックできました。あとは丸もうけです。1年に15万円ぐらいのもうけになります。それで、あと8年経って20年目になると、約束が切れますから、買ってくれなくなりますね。ということは、電力会社もそこでペイバックがおしまいです。負担ゼロになります。しかし、その先も太陽電池は、ずっと電力を生むのです。
―― 使えるわけですよね。
小宮山 そういうものが今、粛々と動き始めているわけです。そうすると、2050年にどうなるか、考えてみたらいいのです。減価償却が終わり、タダになった再生可能エネルギーが本当に動く。しかも、コストはどんどん下がってきています。もの自体が本当に安くなるわけですから。ですから、おそらく、クリーンで安全な有り余る再生可能エネルギーによって、電気飛行機が飛ぶでしょう。大学レベルですけど、電気飛行機はもうすでにできています。4人乗りの飛行機を九州大学の研究室でつくっています。
―― すごいですね、先生。
小宮山 僕は、そういう時代が本当に来ると思っています。
●「楽観主義者の未来予測」は決して荒唐無稽ではない
小宮山 ところが、もっと体系的にそのようなことを言った本があるのです。2008年、カリフォルニアに「シンギュラリティ・ユニバーシティ」という教育機関が創設されました。
―― 新しい学校ですね。
小宮山 「シンギュラリティ」とは、数学で言う「特異点」のことです。
―― 特異点。
小宮山 あなたは数学を勉強していないから、全然分からないだろうと思うけれども、特異点とは、次第に技術が伸びてきたのが、途中まで来ると、一気に伸びて行くというものです。
―― ブレイク・スルーですね。
小宮山 そうです。そういう意味で、シンギュラリティと言っているのですが、その教育機関の創設者が数年の研究成果の本を出したのです。これが“Abundance”という題目です。「豊富」ということですかね。
―― 「豊富」ですか。
小宮山 「豊富」「豊か」という題です。それで副題が、“The Future Is Better Than You Think”といいます。
―― それ、すごいですね。元気になるタイトルですね。
小宮山 その本が、実はつい最近、日本語に訳されたのです。熊谷玲美さんという訳者の方が訳したのですが、この人が訳した題目がすごいのです。「楽観主義者の未来予測」というのです。
―― それは、立派な意訳ですね。
小宮山 ものすごい意訳です。だけど、よく表しています。ですから、もともとの原題“Abundance: The Future Is Better Than You Think”と「楽観主義者の未来予測」、この二つはとてもよく内容を表しています。
これはどのようなことかというと、マズローの欲求5段階説をご存知でしょう。あれは、食欲など人間の本能的な欲望、動物としての欲望から、だんだんとそういうものが満たされると高い欲望になって、最後は自己実現が人間にとって一番の目標になるという話です。それを考えてはいるのですが、人間の必要とする、人間の欲望を実現するものは何であるかということを、マズローの5段階を、ざっと3段階ぐらいに短くして、分かりやすくした視点で説明しています。一番下にあるのが、水と食料と住居・家です。
―― 生存欲求ですね。
小宮山 それから、その上にあるのが、...