●アーサー・ウェイリーの英訳で味わう『源氏物語』の繊細な描写
林 (アーサー・)ウェイリーの『Tale of Genji』という英訳本について、私たちは日本語は読めるけれど、英語はなかなか読みにくいものですから、いったいどのように訳されているのかとすごく興味があります。今日は、せっかくキャンベルさんにおいでいただいたので、一部を読んでいただくところがあるのです。
キャンベル 英語で読むのですか。
林 ええ、そうです。
キャンベル 私が?
林 不得意でしょうけれど(笑)。
キャンベル いやいや、そんな話でしたっけ、みたいな。
林 私は現代語に訳すときに、『源氏物語』の文体は1つではないということを非常に感じました。非常にユーモラスなことを書いているところもあちこちにあるのです。例えば、源典侍(げんないしのすけ)が出てくるところとか、近江の君が出てくるようなところです。それから、頭中将と源氏がバッティングしたり、「雨夜の品定め」というのも相当にユーモラスに書かれています。
でも、いちばん爆発的におかしいのは、源氏が常陸宮の遺児である末摘花のところへ通っていって、その実際を見たときに腰を抜かしそうになる場面があるのですけれど、そこは、原文もものすごく面白おかしく書いてあるのです。おそらくそれを作者の女房が語ったら、それはもう場内爆笑、また爆笑というところだったと思います。
そういう部分と、例えば葵の上が六条御息所の生霊(いきすだま)に殺されるような、いわゆるホラー小説のようなところは、全然違う文体で書かれています。だから、今日はその「末摘花」のところを読んでみてくれませんか。
キャンベル ムチャぶりですね(笑)。今手元にあるのは、タトルという出版社の文庫本で出ていますので、おそらくこれは日本の古本屋とか、そういうサイトやネットでしか買えないかもしれませんけれど、とても読みやすいのです。文字はおそろしく小さいので老眼鏡が必要かもしれませんけれど、これを久しぶりに、先程来、1時間ぐらい前から読み直していて、面白いのです。
ウェイリーは、20世紀初頭のイギリス人の中流階級ですけれど、教育は超エリート(を受けていて)、あの人たちのユーモアというか、文体にぴったりです。だから、すごく脚色をたくさんしているのです。先ほどもいいましたけれど、このウェイリーは男たち...