『源氏物語』ともののあはれ
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
光源氏の恋の動機…母の喪失と満たされない思い
『源氏物語』ともののあはれ(2)光源氏の喪失感と許されぬ恋
板東洋介(東京大学大学院人文社会系研究科 准教授)
当時からして多分にスキャンダラスな内容が綴られた『源氏物語』。主人公である光源氏は、なぜ禁忌とされる義母との恋に突き進んだのか。そこには幼くして母を亡くした光源氏の満たされない思いがあった。『源氏物語』の本文を参照しながら、光源氏にあったただならぬ喪失感に迫る。(全5話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:9分29秒
収録日:2023年8月4日
追加日:2023年11月9日
≪全文≫

●母の不在がもたらした藤壺への恋情


―― それではこの『源氏物語』で、先生に何カ所か読むべき箇所ということでピックアップいただいています。先生、ご解説いただいてもよろしいでしょうか。

板東 はい。

―― まずこちらのところで、これは『源氏物語』の「桐壺」ですね。

板東 はい。第1巻ですね。

―― 第1巻のところですね。「〔光源氏は〕母御息所〔=桐壺更衣〕も、影だにおぼえたまはぬを、〔藤壷が〕「いとよう似たまへり」と典侍の聞こえけるを、若き御心地にいとあはれと思ひきこえ給ひて、常に参らまほしく、なづさひ見たてまつらばや、とおぼえたまふ。」というところですね。これはどういう箇所なのでしょうか。

板東 これは光源氏の母親である桐壺更衣が亡くなった後で、大変彼が寂しく暮らしていた。そうしたら、先ほどお話ししたように、父の桐壺帝が息子に母親の代わりを与えようという気持ちもあって、母親そっくりの藤壺を新しく妻にしたわけです。そうすると、源氏の周りで彼の世話をしていた女房たち(女性の使用人の人々)が新しく入内された藤壺という方はお母様に大変よく似ていらっしゃるようですよと、寂しい光源氏を慰める気持ちもあってそう語ったわけですね。

 彼が3歳のときに(母親は)亡くなり、光源氏は母親の「影だにおぼえたまはぬ」ですから、顔を知らないわけです。そうすると、自分のこの寂しさみたいなものは、母親にそっくりだといわれる藤壺と会えば、少しは慰むのではないか。それで、「常に参らまほしく」なので、藤壺のもとに行って、彼女にある意味で甘えたいと思ったわけです。

 藤壺に対する思いはあくまで母親への思慕であって、異性への憧憬ではないわけですけれども、彼がもうちょっと物心がつくと一種の恋に転化していくわけです。しかも、その恋というのは絶対に許されない恋になる。そういう箇所です。

―― やはり今のお話だけでも、母の喪失、二度と会えない母というところが非常に大きな意味を持ってきそうな感じがありますね。

板東 はい。だからよく、特に現代的な文脈で光源氏はマザコンであるといって、なんとなくカリカチュアライズするというか、笑うような風潮があると思いますが、実際それはそうです。

 しかし、ここの記述で分かるように、それは同情できるというか、彼はある意味で...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
おみくじと和歌の歴史(1)おみくじは詩歌を読む
おみくじは「吉凶」だけでなく「和歌や漢詩」を読むのが本当
平野多恵
百人一首の和歌(1)謎の多い『百人一首』
『百人一首』の歌が選ばれた理由とは?今も残る3つの謎
渡部泰明
『古今和歌集』仮名序を読む(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
渡部泰明
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫

人気の講義ランキングTOP10
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
健診結果から考える健康管理・新5カ条(1)血管をより長く守ることが重要な時代
健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと
野口緑
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦