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ピアノの歴史は江戸時代に始まった

ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ

野本由紀夫
玉川大学芸術学部芸術教育学科 教授
情報・テキスト
西洋音楽史を、ピアノ演奏を交えながら解説いただく画期的な試み。しかし実際にピアノが楽器として確立したのは案外新しい。第1回では、なじみ深いヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」について、ピアノの音で再現しながらの解説を進めていただく。(全11話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:11:05
収録日:2019/09/04
追加日:2019/11/01
カテゴリー:
≪全文≫

●ピアノの歴史は江戸時代に始まった


<ピアノ演奏>

――ありがとうございます。

野本 皆さん、こんにちは。

――こんにちは。本日は、玉川大学芸術学部の野本由起夫先生にピアノで実際に演奏していただきながら、音楽史についてたどる講義をお願いしたいと思っています。先生、どうぞよろしくお願いいたします。

野本 はい、よろしくお願いします。早速ですけれども、皆さん、ピアノという楽器はもちろん小さいころからおなじみだと思います。実はこの楽器、非常に新しく生まれた楽器なんですね。18世紀の後半になってようやく実用的な楽器になってきた。つまり、皆さんが知っている作曲家でいうと、モーツァルトあたりです。でも、モーツァルトのときもまだ、こんな立派な楽器ではなく、その後のベートーヴェンぐらいでようやく楽器として使える性能になってきたんです。

――日本でいうと、江戸時代

野本 江戸時代なんですね。2020年がベートーヴェン生誕250年ですから、まだそのぐらいの楽器なんですね。

――普通、日本人は、もうちょっと古いかと思っていますね。

野本 そうなんです。今日は「ピアノでたどる西洋音楽史」ですが、実際にピアノ演奏されたものだと200年ぐらいしか歴史をたどれません。そこで便宜上、ピアノがなかったころのものもピアノを使って弾いていくことをご了承いただきたいと思います。


●音楽史上の大発明ヴァイオリンも江戸時代に登場


野本 ピアノと同じぐらい、皆さんになじみ深いクラシックの楽器というと、たとえばヴァイオリンを思い浮かべる方が多いのではないかと思います。実はヴァイオリンも、それほど古くない楽器です。ヴァイオリンが実用的な楽器になったのは、音楽史ではバロック時代と呼ばれるころ、17世紀の終わりから18世紀の半ば近くまでぐらいの時代です。これまた、江戸時代に完全に入っていて、江戸幕府が開かれてから100年ぐらい経つころにようやくヴァイオリンという楽器が発明されます。

――ヴァイオリンというと、皆さん「ストラディバリウス」という名器をすぐ連想されると思います。

野本 そうですね。一番高いのは12億以上だったと言われています。そのストラディバリウスが製作されるちょっと前に、ヴァイオリンは発明されたんです。アマティという方がつくったんですけど、そのアマティの弟子がストラディバリウスをつくったストラディバリです。そういう意味では、ヴァイオリンという楽器は生まれたときからほぼ完成したかたちで、今日に至るまで本質的なところはほとんど変わっていない、驚異的な楽器なんですね。

――そうですね。まだその楽器が使えるということですから。

野本 むしろ今の時代になって、その楽器がものすごくよく鳴り響くようになったと言われたりしますからね。さらには、ヴァイオリンがなかったらオーケストラというものだって存在しなかったわけですから、音楽史的には大変な発明だったわけです。


●ヴァイオリン発明と軌を一にしたヴィヴァルディの「四季」


野本 このヴァイオリンをどうやって使いこなしていこうかというときに、非常にすばらしい作曲家が現れました。それが、皆さんもご存じのヴィヴァルディです。この曲、聴いたことがおありかと思います。

<ピアノ演奏>

 ヴィヴァルディの「春」です。「四季」として知られますが、本人は「四季」というタイトルは付けてなくて、「春」「夏」「秋」「冬」と付けたのを後世のわれわれがまとめて「四季」と呼んでいます。今お聴きいただいたのは「春」の第1楽章で、ヴァイオリン協奏曲という形式のものです。ヴァイオリンをソロで弾く人と、伴奏に回るオーケストラの人たちで演奏されます。

 ヴィヴァルディの書いた「春」や通常「四季」と呼ばれている曲自体は、独奏ヴァイオリンのための曲というよりは、オーケストラの中で何人かがソリストをやる「合奏協奏曲」というかたちです。その形式を確立した人がヴィヴァルディなんです。

――ちょうどヴァイオリンが発明されたばかりのころ、それと軌を一にしてできた曲ということですね。

野本 まさにそうなんです。つまり楽器の発明と、それにふさわしい音楽とは、常に一緒に、相互作用で発展していくわけです。


●「リトルネルロ形式」で音楽に統一感を演出


――音楽的な部分での新しさや工夫など、ヴィヴァルディが切り拓いたのはどういう部分なんでしょうか。

野本 ヴィヴァルディの協奏曲は、作曲の構造、「かたち」を、ある程度、定めたところが画期的なんですね。どういうかたちかというと、「リトルネロ形式」といいます。イタリア語で"ritornello"は、「回帰してくる、戻ってくる」という意味です。今、お聴きいただいたメロディ。

<ピアノ演奏>

 この後半が、

<ピアノ演奏>

というかたち...
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