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ベルリオーズとワーグナー:メロディーに人物や物語を象徴させる大革命

ピアノでたどる西洋音楽史(9)いかに音楽で物語を描くか

野本由紀夫
玉川大学芸術学部芸術教育学科 教授
概要・テキスト
ベートーヴェンを継いだロマン派のうち、田園交響曲の感情表現を重視した一派は「標題音楽」の流れを生む。ベルリオーズの「幻想交響曲」からワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」への変化は、音楽家の何を表していたのだろうか。(全11話中第9話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:12:04
収録日:2019/09/04
追加日:2019/12/20
≪全文≫

●「幻想交響曲」が生んだ「恋人のメロディー」とは


―― もう一方で、先ほどの「六番」の流れもありましたね。

野本 (ベートーヴェンの)五番と六番で対抗して、どちらを取るかで争っていたロマン派ですが、六番の交響曲のように、自分でタイトルを付け、何を表現しているか字で書いちゃいましょう、という系列を「標題音楽」と言います。

 これは「物語音楽」とはちょっと区別しなくてはいけなくて、音楽をどういうふうに書いたかを言葉で説明する。物語があって、それを音楽にするというよりは、音楽を言葉で説明するんですが、その最初の人がベルリオーズ。とりわけ「幻想交響曲」です。

 この交響曲では、「このメロディーは、これを意味するというのを決めちゃえ」ということをしました。それが…。

<ピアノ演奏>

 これを「恋人のメロディー」と呼んでいるんですね。このメロディーが出てきたら、常に恋人を表しています。つまり、意味とメロディーを一致させることをやったんです。これを「固定楽想」、フランス語で"idée fixe"(イデー・フィクス)と言います。そういうことをやって、これをアレンジしていくことで、「恋人がどんな姿になっているか」を想像させようということなんです。たとえば第5楽章になると…。

<ピアノ演奏>

 こんな感じに変わってしまうんですが、なんかちょっと下品な感じがしますね。実は魔女になっちゃったんです。

―― これも、すごい話ですね。

野本 そうですね。彼氏に殺されてしまって、魔女になってしまったという様子を表している。そういうふうに、同じメロディーでもアレンジを変えるといろいろな感情表現ができるじゃないか、ということに気がついたのがベルリオーズだったわけです。

―― 人を象徴するメロディーをつくって、それをいろいろ変えることによって、象徴する人物が喜んでいるのか、悲しんでいるのかを表現した。

野本 どういう環境に置かれているのかなどが想像できる、ということをしたんですね。


●ワーグナーの発明した「ライトモチーフ」


野本 ベルリオーズの大親友だった人にワーグナーがいて、オペラが得意な方でした。彼は、「恋人だけじゃなく、もっといっぱいつくっちゃって、全部、意味を決めてしまえば」みたいにしたんです。たとえば…。

<ピアノ演奏>

 これを「剣」のモチーフにしちゃえば? という具...
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