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10分でわかる「源氏物語の基礎知識」

『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識

林望
元東京藝術大学助教授
情報・テキスト
『謹訳 源氏物語 改訂新修 完結1~10巻セット』
(林望著・ 編集、祥伝社文庫)
『源氏物語』は光源氏と源氏の息子たちを中心に描いた70~80年におよぶ長い物語である。非常にボリュームがある上、原文は難解で大半の人は読むのが困難だ。それでも現代までこの物語が残ったのは、読めた人たちが面白いと思い、人に伝えたいと写本を作ったり、語り聞かせたりしてきたからである。そんな魅惑の書の読み方として、第1話では『源氏物語』の基礎知識をお伝えしていく。(全8話中第1話)
時間:13:01
収録日:2022/02/22
追加日:2022/06/20
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≪全文≫

●『源氏物語』は一つの物語ではなく、さまざまな物語の集合体


 こんにちは、林望です。私は『謹訳 源氏物語』(祥伝社)という新機軸の『源氏物語』の現代語訳を出しました。今の人たちは『源氏物語』を読みたいと思っても、いざ読むとなると難しいものがあります。そこで“道しるべ”となるような本を書きました。

 しかもこの現代語訳は10冊もあり、相当なボリュームです。読むには忍耐や、ある程度の予備知識が必要です。そこで今日は『源氏物語』を読むための予備知識を少しお話ししようと思います。

 『源氏物語』と一口にいいますが、これだけ膨大ですから全部が均一に書かれているわけではありません。詳しく分けると「本編」と「宇治十帖」と、その中間という3つの部分に分かれます。

 本編の「桐壺(きりつぼ)」から「幻(まぼろし)」までは、光源氏(ひかるげんじ)が主人公の物語です。その中でも前半の部分にあたる「桐壺」から「藤裏葉(ふじのうらば)」までが第一部、「若菜(わかな)」から「幻」までを第二部と分けることができます。いわば源氏の誕生から壮年時代までが第一部、第二部はむしろ源氏の息子や頭中将(とうのちゅうじょう)の息子など二代目の話です。源氏はもうおっかない権力者になっているような時代の物語です。

 第二部は「幻」で終わりますが、その1つ前の「御法(みのり)」で源氏の最愛の人である紫上(むらさきのうえ)が定命(じょうみょう)が尽きて死んでしまいます。「幻」というのはあとでまたお話ししますが、紫上に死なれ、いかに源氏が腑抜けになったかという物語です。

 ただし死ぬところは書かれていません。「雲隠(くもがくれ)」という巻があり、それは名前だけあって本文がないという、非常に不思議な巻です。もともとは書かれていたという説と、最初から書かれておらず、ただ「雲隠」という名前だけで源氏の死を象徴しているという説がありますが、これはどうにもならず、決まっていません。

 結局、源氏は52歳で死ぬということとなっています。つまり「人間五十年」の2年後に死んだことになっていますが、死ぬところが書いていないので分かりません。ただその次に「匂宮(におうのみや)」「紅梅(こうばい)」「竹河(たけかわ)」という3つの帖があり、「匂宮三帖」と呼ばれています。これが源氏の死後8年ぐらいからの話で、源氏はもちろん出てこず、傍流の人たちの話です。全体としては、あまりまとまりがなく、盛り上がりもしない過渡期的なものです。

 そのあと、「橋姫(はしひめ)」から新しい物語が始まります。源氏の弟に宇治の八の宮(うじのはちのみや)という隠遁者のような宮様がいて、その宇治の屋敷で繰り広げられる話です。匂宮(におうのみや)と、源氏の息子となっているけれど、実は柏木(かしわぎ)と女三の宮(さんのみや)の不義密通の子である薫(かおる)が色恋の鞘当てをする物語です。

 前半は宇治八の宮の2人の美人の姫君である大君(おおいきみ)と中君(なかのきみ)をめぐって、匂宮と薫が虚々実々の駆け引きをします。途中の「宿木(やどりぎ)」という巻から、浮舟(うきふね)という八の宮の隠し子で、大変な色気のあるお姫様が出てきます。この浮舟をめぐって後半は薫と匂宮が、また侃々諤々と恋の鞘当てを繰り広げる、すごくリアリスティックな話になります。

 そう考えると源氏が生まれてから、70~80年もの長い物語で、それも一つの物語ではない。さまざまな物語の集合体といってもいいのです。本編にしても、源氏の事実上の妻である紫上が主人公の「紫上系統」と、頭中将の愛人だった夕顔の遺児で、子どもの頃は撫子の君(なでしこのきみ)、長じて玉鬘(たまかずら)と呼ばれるのですが、その玉鬘が中心の「玉鬘系統」の2つあります。これらは相互にあまり混じり合っていないので、成立した順序が違うといわれています。そういうものがまぜこぜになり、1つの流れになっているので非常に分かりにくいところもあります。

 だから作者も、全部を紫式部が書いたという説もあれば、いろいろな人が手を加えているという説もあります。これも永遠に決着のつかない話ですが、私はずっと訳す中で宇治十帖は別の人が書いた気がしました。使っている語彙がかなり違っていますので。ただ、そのあたりはよく分かりません。


●難解な『源氏物語』、メジャーになったのは江戸時代から


 『源氏物語』は漫画にもなっています。みんなが憧れる物語で、日本人には『源氏物語』をぜひ読んでみたいと思っている人がたくさんいます。でもいざとなると、なかなか読めません。よく無責任な人が「『源氏物語』は日本文学最大のベストセラー」などと言いますが、そ...
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