『源氏物語』を味わう
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
「実事」とすら書かない、『源氏物語』に秘めた色恋の話
『源氏物語』を味わう(4)色恋とエロスの物語
林望(作家・国文学者)
『源氏物語』には、男と女のエロティックな色恋の場面があちこちに出てくる。そうした行為を昔の人は「実事」と表現したが、『源氏物語』にはそうした具体的なことすら書かれていない。男が女の閨に入れば、それは当たり前のことだからである。閨に入ったら、次は帰るところから始まる。その間を読者に想像させるところに深いエロティシズムがある。紫上との初夜では、翌朝「女が起きてこない」と書くことで、肉体的に結ばれたことを読者に分からせようとした。(全8話中第4話)
時間:12分55秒
収録日:2022年2月22日
追加日:2022年7月11日
≪全文≫

●「ここに実事あり」とすら書かない


 では、『源氏物語』の深読みです。『源氏物語』は、ご案内のように簡単にいえば恋の物語です。男と女が出会えば恋が生じる。その恋には罪があったり、苦しみや悲しみなど、さまざまなものが出てくる。AさんとBさんが出会って好き合って、みんなに祝福されて結婚したというのでは、話になりません。そこにやはり、あってはいけないことなど、いろいろあるわけです。

 ここで少し言っておきたいのは、日本人の伝統として、「恋」には一つの形があったことです。男が女の閨(ねや)つまりベッドに、夜になったら通ってくる。そして明け方のまだ暗いうちに帰っていく。こういう形をしているのです、恋というのは。

 ただなんとなく「あの人が好きだなあ」などと、ぼんやり思っているのは恋とはいわない。憧れ程度です。だいいち昔の本当の深窓のお姫様は、人前になかなか顔を出しません。憧れることもできないわけです。

 しかし、恋となると、必ず肉体性を伴っている。一晩ともに寝て、そこに肉体的な関係を伴った上で、「愛する」「苦しむ」といったことが生じてくる。これが恋だと、日本人はものすごくプラグマティック(実利的)に考えています。「蝶よ花よ」などというのは恋のうちに入りません。

 『源氏物語』もこれを前提に書かれていて、そうしたエロティックな色恋の場面はあちこちに出てきます。ただし、それは当たり前のことです。男が女の閨へ通い、明け方に帰っていった。その間に2人で将棋を指していた、などということはありません。必ず閨をともにして、そこには性行為を伴っている。これを「性行為」などと露骨なことをいわず、昔の人たちは「実事」といいました。「ここに実事あり」などというのです。

 ところが、『源氏物語』には書いていません。『源氏物語』は、当たり前のことは書かないという文学です。ここへこうやって来て、男が女の人の閨に入った。もうそこから先は実事があるに決まっている。だから次は終わった後、帰るところから書いてある。当然、読者たちは、そこを想像するのです。

 三文小説と違って、「あっはん、うっふん」なんてことは書いていません。でもそこを想像させるところに、実に奥深いエロティシズムがあると思います。今日はそういう恋の名場面、エロスの物語としての『源氏物語』を読んでみたいと思います。

 まず「...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
「ホメロス叙事詩」を読むために(1)ホメロスを読む
2700年前のホメロスの叙事詩が感動を与え続ける理由
納富信留
石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿(1)政治家・石原慎太郎の源流と核の問題
石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿…対比で見えてくる現代的課題
片山杜秀
文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元
「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷
釘貫亨
バッハで学ぶクラシックの本質(1)リベラルアーツと音楽
中世ヨーロッパの基礎的な学問「7自由学科」の一つが音楽
樋口隆一
『古今和歌集』仮名序を読む(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
渡部泰明
『ロビンソン・クルーソー』とは何か(1)読み続けられる18世紀の小説
なぜ『ロビンソン・クルーソー』は“最初の近代小説”なのか
武田将明

人気の講義ランキングTOP10
編集部ラジオ2026(17)「過剰な良かれ」の落とし穴
【10minで考える】巨人・阿部監督の辞任と「過剰な良かれ」
テンミニッツ・アカデミー編集部
AI時代にリベラルアーツがなぜ必要か(1)AIに置き換わる仕事と人間がやる仕事
AI時代にリベラルアーツがなぜ必要か…人間がやるべきこととは?
橋爪大三郎
地政学入門 歴史と理論編(1)地政学とは何か
地政学をわかりやすく解説…地政学の「3つの柱」とは?
小原雅博
AI大格差~最新研究による仕事と給料の未来(1)最新研究から見えてくる未来像
AI大格差…なぜ日本の雇用環境では「ショックが大きい」のか?
宮本弘曉
老荘思想に学ぶ(3)「過度」を戒める「道」の思想
実力、実質を伴わずにやり過ぎるのは愚の骨頂である
田口佳史
イラン戦争と終末論(1)イラン戦争の戦略的背景と米国の政策
なぜイラン戦争がこのタイミングなのか?戦略的背景に迫る
東秀敏
ウェルビーイングを高めるDE&I(5)心理的安全性の高い組織づくり
無知、無能、邪魔!?…心理的安全性を阻害する5つの要因
青島未佳
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
小澤開作と満洲事変・日中戦争(1)少年時代の苦労と五族協和の夢
満洲で「五族協和」に命を懸けた小澤征爾の父・小澤開作
小澤俊夫
AI時代と人間の再定義(7)AIと倫理の問題と法整備の可能性
人間のほうがAIに寄ってしまう?…関係性と倫理のあり方
中島隆博