●AIは未来を予測できるのか
―― AIに関する論理やキーワード自体が変わってきている中で、次にお聞きしたいのが、パターン認識などの仕組みで動いているAIが、未来をつかむことができるのかということです。例えば、いろいろな音楽の中で、どの曲がはやるのか。どの本がベストセラーになるのか。あるいは昔のものだと、ダッコちゃん人形やフラフープ、あるいは紅茶キノコダイエットとか、なぜ流行るのか分からないけれども一世を風靡するものが突如現れることがあります。これらはAIによって予測することができるのでしょうか。
西垣 これについては、なかなか論争的(controversial)な議論があります。AIは過去のデータに基づいて予測をするわけです。そうすると、古いデータに基づいているのだから、新しいことに対応できないという意見も出てきそうですが、必ずしもそうではありません。やはり一定の社会的な傾向(trend)というものは存在すると考えられます。そのため、そこそこ当たりそうなヒット作を予測したりすることは、私は可能だと思います。
―― なるほど。
西垣 さらには、例えば作品を売ることを考えたとき、トレンドから見て、ウケるだろうなということで、それなりのお金をかけて開発しようとするでしょう。エンターテインメント産業の取り組みとして考えられますよね。
―― はい。
西垣 そういう意味では、経済的に成功する作品を、そこそこ予測することはできると思いますが、ただそれでいいのかという話です。私は、はっきりいうとそれではダメだと思っているわけです。
●一神教的な客観世界観とAIは親和性が高いが……
西垣 クリエーターが創作活動にAIの技術やデータ処理能力の一部利用することは別に構わないと思います。ですが、AIで作品を自動生成して販売するのはどうか。
クリエーターは個性が強く、ある意味ではわがままなので、エンターテインメント産業からすると、そんな人と付き合うのは面倒だと。AIだったら、一晩で何百個も作ってくれるからいいじゃないかという話になる。これは、人間の芸術活動を劣化させる、あるいは、さらに破壊してしまうのではないかという気がしています。
なぜかというと、「新しさとは何なのか」という問いです。先ほどの論理主義の話の延長では、「世界や宇宙には本当の意味で新しいものは存在しない、すでに固定化した(神がつくった)実体と秩序が存在し、それらを組み合わせることで作品ができる」という考え方もあります。
―― はい。
西垣 万物が既存のものの組み合わせだということになると、高速な組み合わせが可能なのはAIです。これは人間のスピードとは比べ物になりません。そうすると、AIは芸術作品を作れるとなるわけですが、私は必ずしもそうではないと思っています。世界は実際には、固定化された秩序体系とは異なるという見方もできるからです。
万物が要素的な実体の組み合わせだというのはかなり大きな話です。でも、ある意味で西洋ではオーソドックスで、正統的な考え方なのですね。
―― その、「もともとが組み合わせなのだ」という考えがということですね。
西垣 そうです。実体が存在し、それが秩序立っており、そこを人間が探究していくという考え方です。例えば、実験科学などはそうですね。客観的な世界があって、それはもともと神様がお創りになったという話です。
―― 西洋ですから、創造主たる神が創られたのだということですね。
西垣 ええ。創造主。世界は神が創られた。人間はそれを認識していく。
―― 読み解くというようなイメージですか。
西垣 天才的な能力を持った人が、読み解きながら、芸術作品を作っているのだと。これは伝統的な美学の考え方だと思います。
ですが、本当にそうでしょうか。神が世界を創造したというユダヤ・キリスト・一神教的な考え方もあり、それを全面的に否定するかどうかは大きな問題ですが、(神さまの話はいったん脇に置いておいて)普通に考えると、「そうはいうけれども、客観世界なんて一体誰が創ったのですか」という疑問が出てきますね。
むしろ、一人一人の人間の主観的な世界がまずある。あるいは、一人一人の人間というより、生物だってそれぞれ主観的に生きているわけです。犬だって、猫だって。そいうものがいろいろあって、人間の場合には、お互いに話をして、共通のルールを作って擦り合わせながら、客観世界のようなものを事後的に作っているという考え方も存在します。
私はどちらかというと、そういう考え方で、客観世界といっても、偶然的要素も多くある、ダイナミックなものなのではないか。固定的で、永遠不変というより、むしろ一瞬一瞬で変わっていく、流れ去っていく、世界とはそのようなものだと思います。
人間であるクリエーターは、...