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ポストモダニズムとコンピュータ…相対主義とデータ科学

ChatGPT~AIと人間の未来(5)コンピュータと哲学の連関

西垣通
東京大学名誉教授
概要・テキスト
コンピュータの発達の歩みは哲学と関連してきた。たとえば、1960年代に、それまでのマルクス主義やサルトルなど、近代主義(モダニズム)をベースとした哲学ではなく、レヴィ=ストロースらの「構造主義」「ポストモダニズム」の議論が興隆してくる。相対的な価値観に基づくポストモダニズムは、「近代化による人類の進歩」という科学の理念に疑問を投げかけた。その一方で、相対主義では物事が動かないという部分もあって、「データやエビデンスは、何らかの実用的な客観性を持っているだろう」とする実用的なデータ科学も人気を博するようになる。そのような流れを、どう考えるべきだろうか。(全8話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:06
収録日:2023/03/15
追加日:2023/06/15
タグ:
≪全文≫

●実存主義からポストモダニズムへ


―― 続きまして、ご著書『超デジタル社会』でとても印象深かったのが、コンピュータの発達・歩み・歴史を、哲学と織りあわせて論じておられる点です。典型的には、サルトルなどが唱えた実存主義的な哲学から、レヴィ=ストロース以降の構造主義、さらにポストモダニズムへといった哲学の歩みが、 コンピュータのさまざまな考え方と平仄(ひょうそく)が合うというお話がありました。この点について、先生はどのようにお考えでしょうか。

西垣 私は団塊の世代で、大学時代に学生紛争があった時代の人間です。あの頃は、マルクス主義が知識人の心を捉えていました。サルトルは、マルクス主義と実存主義哲学を組み合わせた人物で、「歴史に自らを投げよ。そして世の中を良くしよう」という彼の言葉で血をたぎらせた若者は多かったと思います。

 しかし、あのとき、もうすでにフランスでは構造主義が登場してきており、サルトルの実存主義はやや古いと言われていたようです。レヴィ=ストロースが『野生の思考』という本を60年代に書いたのですが(1962年)、彼は人類学者ですので、さまざまなフィールドワークをやったわけです。そして、「白人が自分たちの近代主義を推し進めているけれども、これは間違いではないか」 「未開とされた人々たちの中にも、それぞれ文化があるし、言語もある。それぞれにみんな価値があって、正しいのだ」という一種の相対主義を、彼は主張しました。

 特に1960年代は、アフリカなどの多くの国が独立していった時代でした。はっきりいうと、植民地で白人たちは悪いことをいっぱいやったわけです。そういうこともあって、「構造主義は素晴らしい」という議論が支持されるようになったわけです。

 たとえば言語に関して言うと、日本語やスワヒリ語、フランス語など、それぞれの言語が、それぞれの言語なりの方法で、世界を表現し、記述しています。そこに「上下」はないんだという考え方ですね。

 こうなると、ポストモダニズムが出現します。それまでは、西欧流の近代化や民主主義が大切で、世界を進歩させていくのだという考え方でした。これに対し、地球上の多様な言語や伝統文化をみな尊重すべきであるという相対的な価値観も生まれてきたわけです。


●「相対的価値観」と「データサイエンスの実用的客観性」


西垣 この相対的価値観には、私...
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