山上憶良「沈痾自哀文」と東洋的死生観
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
山上憶良が「沈痾自哀文」の中で語った人間の価値とは
山上憶良「沈痾自哀文」と東洋的死生観(2)救済思想と人間の価値
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
「人の善悪は報われるのか」という山上憶良の問いは、古くは4世紀の中国仏教界を揺るがしたものであり、新しくはミュージカル『キャッツ』にみられる救済思想とも重なっている。ここで難しいのは因果応報思想との関係で、人間の一生を超える長いスパン、あるいは万物を平等に照らす太陽のような存在について問うとどうなるだろうか。憶良が「沈痾自哀文」の中で語った人間の価値とともに考えていきたい。(全4話中第2話)
時間:13分04秒
収録日:2024年4月2日
追加日:2024年7月19日
≪全文≫

●4世紀の中国仏教界を揺るがした問いかけ


 実は、(山上憶良による)問いかけは、中国の4世紀を生きた知識人、戴逵(たいき)という人が問題としたことでもあります。彼は次のように言いました。

 「自分は仏法を奉じ、仏法を守って、善い生活を心がけてきたつもりだ。しかし、私の人生を振り返ってみると、苦難の連続であった。いいことなど一つもない」

 戴逵はそのように言った後、こういうふうに考えました。

 「仏教が『善いことをすれば善い報いが来、悪いことをすれば悪い報いがくる』というふうに説いているのは、民衆を教え諭す『教化(きょうけ)』のためだろう。そういえば悪いことをする人が減るので、そうしたのだろう。しかし実際には、賢いか愚かか、豊かであるか貧しいか、人間の寿命が長いか短いかということは、あらかじめ決まっているのではないか」

 このような問いかけを戴逵が行った結果、中国の仏教界を中心とする大論争が巻き起こりました。戴逵と、当時の大きな仏教教団である「慧遠教団」の間で大きな論戦が起こったのです。

 こういうことも山上憶良は知識として持っていたはずで、それを踏まえた上で、年を取り、身体が動かなくなってきて、辱めを受けているような認識になったときに、この問いかけをしているわけです。これをどう考えるかは、大きなことです。


●『キャッツ』に見られる救済思想


 少し話を逸らしましょうかね。日本では劇団四季によって大ヒットした『キャッツ』というミュージカルがあります。

 年に一度、ニューヨーク中の野良猫たちが天上に集まってきて、天上世界に転生(生まれ変わる)することのできる「ジェリクルキャッツ」というものを決める。そこで集まったいろいろな猫たちが、「私は豊かだ」「私は善いことを、これだけする」というふうなことを言い合います。

 それらに対して、最後のほうで登場してくるのが、ボロボロになったミンクのコートを着た老いさらばえた雌猫です。それを見て、みんなは「あれは若いときには美貌だったから、多くの男を騙した」「悪い猫だね」「体を売っていたような猫じゃないか」というようなことを言うわけです。

 そこで、老いさらばえた雌猫の歌うのが有名な「メモリー」という曲です。「♪メ~モリ~、私にかわって~、私を抱きしめて~ほしいの♪」という、あの曲です。そうすると、その猫が「ジ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿(1)政治家・石原慎太郎の源流と核の問題
石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿…対比で見えてくる現代的課題
片山杜秀
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元
「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷
釘貫亨
『古今和歌集』仮名序を読む(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
渡部泰明

人気の講義ランキングTOP10
日本の財政の真実を検証する(1)膨らむ借金の知られざる実態
日本の財政の「真実」をデータで徹底検証…国際機関の分析は?
宮本弘曉
ラカンの精神分析~心の謎を解き明かす(5)否定神学とラカン理論の限界
暴いてはいけない!?心を理解する上で重要な「否定神学」とは
斎藤環
キケロ『老年について』を読む(1)キケロの評価と「老年の心構え」
幸福な老年への智恵をキケロに学ぶ…惨めな老年の4つの理由とは
本村凌二
ギリシア神話の基本を知る(1)「ゼウス以前」の神々の戦い
ギリシア神話…ゼウスの「父親殺し」とオリュンポス十二神
鎌田東二
AI時代にリベラルアーツがなぜ必要か(7)自分の人生のために
AI時代こそAIでなく「生きた学び」で自分の人生を膨らませる
橋爪大三郎
AI時代と人間の再定義(1)AIは思考するのか
AIでは「思考の三位一体」が成立しない…考えるとは?
中島隆博
編集部ラジオ2026(19)橋爪大三郎先生のリベラルアーツ論
【10min解説】橋爪大三郎先生:AI時代にリベラルアーツがなぜ必要か
テンミニッツ・アカデミー編集部
日本神話の基本を知る~世界・人間・文化のはじまり
「国生み・国作り・国譲り・国治め」と「むすひ」の力
鎌田東二
小澤開作と満洲事変・日中戦争(1)少年時代の苦労と五族協和の夢
満洲で「五族協和」に命を懸けた小澤征爾の父・小澤開作
小澤俊夫
AI大格差~最新研究による仕事と給料の未来(1)最新研究から見えてくる未来像
AI大格差…なぜ日本の雇用環境では「ショックが大きい」のか?
宮本弘曉