山上憶良「沈痾自哀文」と東洋的死生観
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山上憶良が「沈痾自哀文」の中で語った人間の価値とは
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山上憶良が「沈痾自哀文」で問いかけた因果応報の問題
山上憶良「沈痾自哀文」と東洋的死生観(1)因果応報と日本仏教の課題
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
『万葉集』にさまざまな歌を残した山上憶良は、8世紀の「知の巨人」と目されている。例えば彼は、「善行を積んできた自分が報われず、老いの醜態をさらす惨めな状況になったのはなぜか」という問いを「沈痾自哀文」に残した。これは「因果応報」をめぐる東洋思想の最大の問題で、日本仏教の課題につながるものである。(全4話中第1話)
時間:13分35秒
収録日:2024年4月2日
追加日:2024年7月12日
≪全文≫

●8世紀の「知の巨人」が人生を振り返って考えた「沈痾自哀文」


 ご機嫌いかがでしょうか。上野誠です。この配信ではいろいろなテーマをお伝えしてきたわけですが、今日は日本の8世紀を生きた「知の巨人」といいましょうか。(当時は)音声の記録はできなかったわけですから、そのように「知の巨人」といわれるためには、著作物が一定残っていないとそうはなり得ません。

 8世紀の「知の巨人」というと、まず第1番目に思い浮かぶのは、山上憶良という人です。では、その山上憶良とは、どういう人だったのでしょうか。

 この人の前半生はよく分かっていないのですが、おそらくはお経を写す写経などの仕事に関わっていたと思われます。そのうちに学識が認められ、遣唐使の一員になります。「遣唐少録」という(書記の)仕事(を命じられ)、唐の国に赴く人物の一人になったのです。

 帰ってくると、(当時の)皇太子だった首皇子(おびとのみこ)、後の聖武天皇の家庭教師を務めることになります。その後、出世していくわけですが、今でいうと県知事クラスの国司として終わった人物です。

 その彼の著作は、全て『万葉集』にあります。『万葉集』の巻五を中心としたものを読めば、山上憶良という人の考え方が分かる。『万葉集』をちょっと勉強した人ならば、まず挙げるのは額田王ですが、(残された)歌は少ない。やはり『万葉集』を代表するのは雄大な歌を詠んだ柿本人麻呂。そして、もう一人挙げるとすれば、おそらく山上憶良か山部赤人ということになるでしょう。

 ただし、平安時代における山上憶良の評価はそれほど高くはありませんでした。山上憶良という人は、日本人として中国の文献を読み、中国に渡ると、自分たちの文化を考えていった。最初の哲学者といっていいかもしれないような人です。

 この山上憶良の著作の中に「沈痾自哀文(ちんあじあいぶん)」という文章があります。一体どういうものかというと、70歳を過ぎて身体が言うことをきかなくなった中で、自分の人生を振り返りつつ、人間にとっての幸せとは何かを考えたものです。この文章を読んでいると、人間とはどういうものかを考えさせられます。

 現代の学問や学術、科学といったものは、「これはこう、これはこう」という具合に細かくなっています。しかし、「人間にとって幸せとは何か」「人間にとって老いとは何か」といったような、...

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